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かがくばくはつ

腑に落ちないまま映画の約束をする。


それにしても、この男のどこを好きになったのだろう。

色素の薄い髪の毛、長いまつげ…確かに美形だけれど、冷たい美形だ。

最初、話しかけてもそっけない態度に何度涙を呑んだことか。

好きになるのに1年もかかった、1年もかかって好きになって…好きになったら、目が離せない。

もう嫌いになれない。

けれど、振られて一緒にいてもいいかというと、別問題だ。

たまには傷心に浸りたい。


実験室に着き、重い本を机の上に置く。

実験待ちの時間は暇以外の何者でもないから、分厚い本を開けてみる。

全然、頭には入ってこないけれど。


実験待ちのローテーションを組んだ友人たちが恨めしい。

何度も今日は予定があるからって言ったのに、誰も話しを聞いてはくれなかった。


先輩は、あいた時間を片手になにか実験を始めたようだった。

細い手がビーカーの中の液体を混ぜる。

「なに見てんの。」

そういって、向けられる優しい笑顔にドキッとする。

非常にいい顔だ。

顔も見ていられなくなって、先輩の近くにあったビーカーを手に取る。

「これ混ぜたらいいんですか。」

先輩がうなづいた。

「もしかして…照れてるとか。」

思わず噴出してしまう。

ビーカーの中身を混ぜる手が震える。

「こっちみてよ。」

先輩の低いいい声が、私の耳をくすぐる。

先輩が手に持っていたビーカーをゆっくりと机の上におろし、私の隣に立つ。

そして手に、私の手に先輩の手が触れた。

「何してるんですか。」

そういって、あわてて持っていたビーカーを私も机の上に置こうとして、そう置こうとしたはずなのに、思わず先輩のおいていたビーカーに中身を入れてしまう。


「おい、なにやって。」

熱くなるビーカー。

ピキピキッと音を立ててヒビがはいる。


ヤバイ。

実験では待つことが大切なことが多いのに、またやらかしてしまった。


男がさっと私の前に手を出し体で私をおおう。

先輩の胸が顔に当たる。

白衣にしみこんだ薬品のにおいが鼻をくすぐる、こんなときだというのに思わず心がときめいてしまう。


ビーカーのカシャンという破壊音に、ときめきはすぐに現実に戻る。


これは、まさしく


かがくばくはつ


「なにやってんだよ。」

こんなときまで、声を荒げない。

落ち着いた低い声。

そうだ、私はこの声にやられたんだ。


この辛辣で

どうしようもない悪辣な言葉を言うはずの口から出る

低い

低い

心地よい声。


冷たいのに、いつも側にいてくれる人。

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