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かがくはんのう

 昔から運動よりも勉強、国語よりも算数の好きだった私は、気がつけば理系街道まっしぐらに突き進み、中学、高校を経て大学に進学した。

 通った学校は共学ばかり、もちろん男子との接点は合った。むしろ理系に進んだことで、年を経るごとに男子比率のほうが上昇していった。

だが、どこで道を間違えたのか…私には浮いた話の一つすらないまま大学生に。

回りのリケジョたちは、それなりに彼氏を見つけていった。


 焦りはよくない。

 そう焦っては実験は失敗する。


こう自分を言い聞かせ早20年。

私はファミレスにいた。

しかも目の前には、大学院生となった憧れの先輩がいる。

もちろん二人っきりなわけはない。

同じ実験グループの数人と飲み会・懇親会というよりも、実験が遅くなってただおなかを満たすためだけにやってきたファミレス。

まったく色気はない。

ため息が、だだもれするぐらい色気はない。

「なに、おなか鳴らしてるの。」

先輩の言葉も色気はない。

私の腹の音をしてきするデリカシーの差なさにも腹が減る。

「ちょっとドリンクバー行ってきます。」

「俺、オレンジ。」

「私、お茶。あったかいの。」

次々にオーダーが出される。

誰が入れてくるかと思いつつ席をたちドリンクバーへ直進する。

大好きな甘い紅茶をいれながら、ドリンクバーの種類を目で確かめる。

コップを数個とり、ボタンを押し始める。

「なにしてんの。」

思わずびっくりしてボタンを留め損ねて、コップからドリンクがあふれ出す。

「え。」

「なに、この色。」

「あの・・・。」

「何混ぜてんの。」

それは、完全に悪戯がばれた瞬間だった。


そう私は実験グループのみんなに、色だけ似せて数種類飲み物を混ぜもって行こうとしていたところを発見されてしまった。

あふれたジュースを少し捨て、タオルでコップを拭く。

黒色とは違う、まがまがしい色になったジュース。

炭酸を混ぜすぎたせいか、それとも違うドリンクを混ぜすぎたためか、ドリンクの中から美味しそうに湧き上がる炭酸は、コップのガラスにただへばりつく泡に変化している。


「やるなら、もっとちゃんとやれよ。」

そういって先輩も茶目っ気たっぷりに、ドリンクを混ぜ始めた。


こういうところが…普段は冷静なのに、おもしろいところが…

「好きです。」

思いっきり告白する。

好きになるまでに1年もかけて、そして片思いになって1年、思わず告白したのは一瞬。

勢いよく、それはもう。

ごまかしようもなくて、まるで花束を差し出すようにジュースを差し出した。


受け取って。

この思い。


「俺、無理。」

はっきり断られる。

そして先輩は表情も変えず、馬鹿らしくなったのかドリンクを混ぜもせず、頼まれた飲み物だけを入れて去っていった。



「ったく、女の子を断るのに、あんな言い方するなよ。」

ぶつぶついいながら重たい本を実験室に運ぶ。

あの後、何もなかったようにファミレスでご飯を食べて、また実験室に戻る。

それぞれの担当位置につき、実験を開始。

といっても、待つことが実験の主な仕事になったため、ローテーションを組んで、居残り組み…私と先輩だけを残してみんなは帰っていった。

「誰のこといってんの。」

先輩が後ろから器用に何冊か本を取り上げる。


告白をして『無理』といわれた相手。

色素の薄い髪に瞳

ほっそりとして長い白い手は、私よりも格段に美人だ。

「先輩のことですよ。」

「そう。」

無言はつらい。

「そうなんです。」

「そ、じゃ、今度どこ行く?」

不思議な発言をしてくる。

「え?」

「そんなに驚くこと?」

男が怪訝そうな顔をした。


だって驚くでしょ、振られて誘われるなんて

どんな

 かがくはんのう

     だ!!って

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