助言
ちょっと体をひねり、椅子の背に端末の背面にあるらしいスピーカー部分を当てて音の拡散を防ぐと、神前はやや声を落とした。
「あのな。羽角の移籍金が払えなくて、レンタル回収されそうなんだ。羽角を残すために俺が出て行くことも、考えたけど──」
『バカなの、直くん? どんなやつだか知らないけど、クラブ在籍十七年と引き換えに残されたレンタルにかかる、重圧を考えなよ』
「ぐ。……どんなやつってな。おまえ、グラニでいっしょだっただろっ。羽角、おまえにもらったってTシャツ、大事に着てるのに」
赤間がゆっくりと瞬きする。
『あー、あの、かわいい顔して、いっつもジャージばっかり着てた、残念王子か。グラニじゃ、桜井の後継に期待してたんだよ。俺も、FFでならうまいこと育つかもとは言ったものの、滝田のオヤジが拾うかは五分だとおもってたんだけどなー』
「えっ。おまえが滝田さんに、羽角の移籍を勧めたってこと?」
『俺じゃない、大樹だよ。アニキたちはずっとFFのこと、気にかけてるから。──あれからせいぜい二年ってことは、移籍金は億もいかないだろ。2部で優勝したってことは、賞金の二〇〇〇万くらいは出せるんじゃないの。必要な選手なら、リスクは覚悟で、長期契約しちゃうしかないね。まだ若いし、よほど大怪我しない限りは働くから、四年くらいかな。でも、八〇〇〇万も出して損失リスクを抱えるのは昔の二の舞になりかねないから、あんまりオススメしないけどね』
神前は、とりあえず首をひねってみせた。
「優児、俺にも分かるように言って」
『これ以上どう簡単に言えっていうの。そうだ、さっき右の方から顔出した既婚者いただろ。あの人、直くんより賢そうだったよ』
まったく失礼ながらそのとおりなので、神前は文句も言わず、紀藤の腕を引いて、一時、タブレットをあずけた。
二言三言交わした後、紀藤はがっくりと長机に片肘をついてうなだれる。
「え、何? 解決したの、してないの?」
「した。……移籍金ってな、入ってくる方は一括計上だが、支払う方は、契約年数で償却するんだと。ここ五年くらい、移籍金を払った例がほとんどなかったから、見落としてた。言っただろ、用意できたのは要求額の半分──つまり、二年契約すればすむ話らしい」
ありがとう、と赤間に礼を述べた紀藤が、神前にタブレットを返してくる。
神前は、狐につままれたような心地で赤間を見つめた。
「今の、ほんと? 本当にあんなことで、羽角と来季もいっしょにやれんの、俺たち?」
『俺を疑うなんて、いい度胸だね。というか、そのくらいのこと、オヤジはともかく社長は把握してるから、任せて大丈夫なんだよ』
神前は、とっさに耳と、回線を疑う。
「おまえ……社長のこと嫌ってたんじゃ?」
『嫌いだよ。疑う余地なんかないだろ? だから、叩き出したきゃ、そうしてあげる』
「──……さっき、今度こそって言ったよな、おまえ?」
ふと、赤間の表情から笑みがかき消えた。
次で、ラストです。
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