天才・赤間優児
「ひ、ひさしぶり。……そこ、イギリス?」
『そだよー。もう、直で話しかけるなんて無理無理言うから、どんなコワモテになってるんだとおもったけど、相変わらず、年上らしい威厳ゼロな顔してるねー、直くん』
にこにこといかにも楽しそうな顔から出てくる毒舌に、神前は肩を落とした。
「おまえも、相変わらずだな。で、ナニ? マコに着信拒否でもされちゃってんの?」
『ちがうけど。マコと言えばさー、ひどいんだよ。何困ってるんだっていくら訊いても、おまえは部外者だから話すわけにはいかないの、一点張り! なのに、鈴木リンのことは頼るって、どういうこと?』
とちゅうで神前が表情を変えたことなどお構いなしで、画面の中の赤間は子供っぽくくちびるをとがらせてすねる。
ほんとうに相変わらずだと、神前は苦笑した。
「鈴木の車にうちのちらしを貼ったとかって話? あれなら、べつの誰かのいたずらだろうって言ってたよ、マコ」
『直くん。俺が、マコの字、見間違えるとおもう? あれ書いたのは、ぜったいマコだ。いかにもおもわせぶりな文面の方は、誰かの入れ知恵に決まってるけど』
あとで紀藤から詳しい話を聞いた神前も、女帝こと、鈴木のツイぽにアップされていた写真を見たが、どうやら同じものを赤間も見たのだろう。
「じゃ。あれって、やっぱりマコが、最終戦に注目を集めるためにやってくれたのか」
ふと、こちらにまっすぐ視線を向けた赤間が、人を食ったような表情を消した。
『直くんも、観戦を呼びかけてたね。アニキたちが、心配してた。今度は、直が売られそうになってるんじゃないかって』
ぐっ、と神前はくちびるを噛んだ。
「だ、だいじょうぶ……」
『相変わらず、嘘も下手だね。すでに契約しちゃって、あきらめてんの? でも、メディカルチェックで破談にしちゃえば平気だよ』
「え……っ」
『それでも解決しないっていうなら、現社長を退陣に追い込むとっときもあるけど?』
ことばを失って、神前はぱくぱくと、口を開閉させた。
涼しい顔で、赤間が笑う。
『できるよ。直くんさえその気ならやろうか、今度こそ? 愛する人のためでもあるしね』
「愛する人って……ま、マコのため?」
『ふふっ。そう解釈されてもいいんだけど──直くんの、目の前にいる子のことだよ。お兄死ね、二度と帰って来るなって、俺のことも、サッカーもFFも、ぜんぶ嫌いになっちゃってた妹が、今年、ひとりでイガスタに行ってFFの応援したんだってさ。もし俺が帰って来たら、直くんのついでに応援してあげてもいいって言ってくれたんだ』
「か! ……帰って来んの、優児?」
あわてて声を落として問えば、あきれたように赤間が笑い返した。
『いいや、帰らない。俺はもう、そこに必要ないだろ。そうやって新しいファンを増やした、今のチームを誇りなよ。FFの再生は、直くんだから叶ったんだ。俺、言ったよね。直くん自身がどんなに無力でも、あきらめなければきっと助けてもらえるよって。俺が居なくても、ちゃんとまた優勝できただろ?』
「うん…………」
『でもまた、あきらめそうになってるなら、俺を使えばいいよ。──助けてあげる』
神前は、熱を持ったまぶたをこれでもかと瞬かせた。
ふと上げた視界に、寒そうに組み合わされた華奢な手が飛び込む。
神前はベンチコートのポケットを探ると、使い捨てカイロを取り出し、居心地の悪そうな女の子に手渡した。
瞬く間に赤味が差した頬に、ほっとする。




