ふれあい第一
「ごめんな、羽角。逢坂を残すために協力させといて、おまえには何にもしてやれない」
紀藤のメガネ越しの視線に、羽角は目に見えて怯んだ。
神前のかげに隠れようとして、もっといい盾が現われた、とばかりににこやかにあいさつをしながら室内に入って来た逢坂に飛びつく。
「蓮?」
「お、オレ、べつに、ここに残りたいなんて、言ったこと、ないとおもいますけど」
「…………言ったよな?」
「う、うるさい、大和! 今、紀藤さんと話しゆうき。言ってないったら言ってない!」
逢坂の背中にエルボーを食らわせながら、羽角が精いっぱいの虚勢を張る。
紀藤は、神前と顔を見合わせた。
「それに、俺、ここの戦い方、知ってるんで。敵に回して困るの、そっちですよ!」
「それはそうだな。──でもおまえ、グラニに帰って、うちの戦術ばらせるような友だち、ちゃんと居るか?」
「いまっ、いま……いませんけどっ」
「とりあえず、俺と話すくらいでびびってんなよ。横浜駅を出るのに一時間、とかバカ言ってないで、ちゃんと道、訊くんだぞ?」
「ひとに道を訊ねるぐらいなら、一時間、歩きます。……い、急いでないときだけ」
紀藤だけでなく、神前も逢坂も、おもいっきり顔に、心配だ、と書いてしまう。
けれど、イベントが始まってしまえば、羽角は人前でもすっかり馴れた様子で、ファンサービスに精を出していた。
安心はした一方、神前とはちがう意味で、紀藤にもそんな羽角を手放してしまうのは惜しまれてならない。
一昨日、クラブから発表された戦力外の選手は、ベテランと若手がひとりずつの、二人だけで。
やはりゼロとはいかなかったが、例年、二桁近い退団者を出していたチームだけに、ファン感に訪れるファンやサポーターの表情も、これまでとはあきらかに違っていた。
選手の側でも、とくに、1部に行けることがほぼ確定した橘の張りきりようは、ものすごく。
チーム最年長とはおもえないはしゃぎっぷりで、例年よりもだいぶ時間を延長し、初めてづくしとなったイベントの盛り上げに、大いに貢献してくれた。
いくつかの選手とのふれあいブースを渡り歩くことでスタンプを集めていれば、好きな選手のサインをもらって帰れるというスタンプラリーに加え、記入済みアンケート用紙の回収を手の空いた選手が握手と引き換えに行うなど、最後まで選手とファンがふれあえる機会を多くしたところは、いかにも紀藤を中心に練った企画らしいなと、神前は微笑ましくおもわずにいられない。




