リレー
同時に、社長に直談判した日のことがよみがえってきた。
『あの、逢坂って子──すごいストライカーが、ユースから上がって来るんでしょう? 僕が先輩からもらったもの、後輩に渡せないままここを去るわけにはいきません!』
売らないでください、と頼み込んだ。
給料なんて、安くたっていいからと懇願した。
移籍せざるを得なかった曽根兄弟から、下のやつらを頼む、と言われていたのに。
たった数年で、神前以外のユース出身者は、降格とともに一度は全員、居なくなってしまった。
それでも、年が明ければ逢坂が上がって来ることを知っていたから、あのとき、チームに留まろうとおもえたのだ。
そうおもった瞬間、ふと、何かが心の隅っこに引っかかった。
「ハズレ、です──」
神前を追い越した逢坂の背中が、ぽつりと言う。
「え?」
「あなたと、俺が初めて話したのは、実は、それより半年以上も前のことです」
まるで、ソコだとノックされたように、記憶のとびらがパッと開いた。
「……あ。俺が、ケガして、ひとりでリハビリしてたとき、だ。──ちがう?」
背中を追いかけて訊けば、ちらりと肩ごしにふり返った逢坂が、ぎこちなく微笑む。
「何を話したか、おぼえてますか?」
正直に、神前は首を振った。
トップへ昇格して来る以前に逢坂の存在を知っていたから、待っていた、と言えたのだとおもう。
ユースの選手と、ときどき、話をした記憶もある。
先輩としてのアリバイを作るような、きっと他愛もない話をしたに、違いない。
あのとき。
三ヶ月以上にも及ぶリハビリ生活と、負け続けているチームの心配だけで、神前には後輩との会話にまで心を動かせる余裕など、とてもなかった。
「ごめん……」
「構いません。忘れてしまっても、俺はおぼえていますから……ずっと。そして、いつか叶えられたらとおもっています。あなたが語ってくれた、俺たち、後輩のための夢を」
はっ、と神前は顔を上げる。
また、記憶のとびらが弾けるように開いた。
「──俺、スタジアムを満員にしたい、って……言った?」
背中を向けたまま、逢坂がええ、と返す。
「イガスタを、エルフのスタジアムみたいに、いつも満員にしたいんだって、言いましたね。あんな満員の応援の中で後輩をプレーさせてやりたい。そして、そこで頂点を争うようなチームになって欲しい。それが俺の夢だな、って……本当に、さみしそうな顔で」
ことばを聞けば、そのときの想いがまざまざとよみがえった。
同時に、背筋が冷える。
ユースの選手が、当時は、まだ子供に見えたのかもしれない。
けれど、今、神前の目の前に居るのは、自分と同じ、立派なプロ選手だ。
だったら、分からないわけが、ない。




