初めて話したとき
逢坂が、怪訝そうに首をかしげる。
「……それはまあ、好きですけど。それも、あなたの次か、その次くらいにですよ。直さんだって、紀藤さんと離れることになっても仕方ないとおもったんじゃないんですか?」
「俺は! 紀藤に恋愛感情なんてないもん」
「そうですか。……それを聞いて、ちょっと安心しました」
もうひとつ、神前は逢坂の胸をぶつ。
「ごまかすなよ。おまえと羽角の話をしてるんだ。恋愛感情があったって、おおお、俺、べつに、差別とかしないし。むしろ、いっしょに居られるように、応援する、し……」
「そうですか。よかった」
こぼすように微笑んでから、逢坂は神前の両手をすくい取った。
「じゃあ、あなたがいっしょに居てください。俺と、ずっと、ここに──」
甘い囁きに、クラリと神前は目眩がする。
夕食に、何か質の悪い酒でも入っていて、もしかして自分は酔っぱらって思考回路がおかしくなってるのだろうかと、不安になった。
それとも、たった四つしか違わないのに、会話が噛み合わないほどのジェネレーションギャップでもあるというのか。
「…………まさか。おまえが、俺にも複数年契約をさせたのって、そのためなのか?」
「──そのとおりです」
反射的に、神前は逢坂の手を払い落とした。
「嘘だ。おまえ今、嘘ついた!」
爪を当ててしまった右手の甲をそっとさすりながら、逢坂が痛そうな顔でうつむく。
「紀藤が何言っても、俺は、おまえの微笑みが嘘だなんておもわなかった。でも、隠してることがあるなら、正直に、話してくれないか。そしたら、信じるし、おまえが本当に望んでいることなら、ちゃんと叶えてやるよ」
一度だけ顔を上げて神前のことを見たが、逢坂はまたすぐにうつむいてしまった。
冷たい風が、何度も頬を撫でていく。
途中で耐えかねて、神前は逢坂の腕を引いた。
「さむい。とりあえず、歩こう。家に着いたら聞くよ」
先に立って歩き出せば、逢坂も後をついてくる。
練習場に隣接するチームの寮から、神前の暮らす1LDKのマンションまでは徒歩で十分とかからない。
敷地を出れば車道沿いを進むことになるが、時折、ヘッドライトの明かりが追い越して行くだけで、歩行者とすれ違うこともなかった。
「──直さん。俺と、初めて話したときのこと、おぼえていますか?」
歩きながら、神前はうなずく。
「おまえが入寮してきたとき、かな」
「……あのときのことば、うれしかったな」
気配で、逢坂が微笑んだのが伝わってきた。
すっ、と逢坂が息を吸う。
「おまえを待ってたって、言ってくれましたよね。いっしょにいいチームにしようって」
神前は、おもわず足を止めた。
それは、神前自身が、先輩である曽根兄弟から言ってもらったことば、そのものだ。
ジャケットのポケットの中で、両手を固くかたく、握りしめる。




