紫一色
江野が言うように、神前と同じチーム愛なんて誰もが感じているわけじゃないのかもしれない。
でも、今、少なくとも、チームを嫌い、憎んでいるような選手は居ないはずだった。
今日も、ベンチ入り以外のメンバーは、チケットもぎりやグッズ販売を手伝ったり、ファンクラブの会員を募ったりしているという。
どんな想いでいようと、スポーツ選手である以上、詰めかけたファンを喜びに感じてくれているはずだ。
勝って応えたいとおもう気持ちだって、きっと同じに違いない。
たとえ試合に出ていなくても、同じ方向をみんなが向いていることを、神前はこれほど信じられたことはなかった。
それが、逢坂がしきりに、いいチームだとおもう、と言ってくれた本当の意味なのかもしれないとおもう。
この一年やってきたことの成果だと紀藤は言ったが、神前にとっては、ぼろぼろで夢も希望も何もかも失いかけていたどん底の三年前から、あきらめずに積み上げてきたものだ。
ひとつきりだった希望の芽を、神前は、たしかに今日につなげて来られた。
いいチームだとおもう──その、逢坂のことばが、神前の背から重い何かを払い落としてくれたような気がする。
だから、神前が先輩としてすべきことは、あと、たったひとつしか、残っていない。
ウォーミングアップを終え、今度は、ユニフォームに着替えて、三たびピッチへ足を踏み入れようとした神前は、おもわず、エスコートキッズの女の子と結んだ左手をぎゅっ、と握りしめてしまった。
辛うじて、足だけは止めずに進む。
バックスタンドは、二階席までが掲げられた色画用紙で紫一色に染まっていた。
スタジアムが揺れるような歓声の向こうから、サポーターによる変わらない出陣の応援歌が湧き上がってくる。
歌声はゴール裏からだけに留まらず、バックスタンドやメインスタンドへも、強風にあおられた延焼のように瞬く間に広がっていった。
胸に飛んできた火の粉のせいか、目の奥が、ぼうっ、と熱くなる。
気づいたとき、神前は自陣で円陣を組んでいた。
紀藤が、肩にまわしていた右手で、神前の背中をぽん、と叩く。
「江野の言ったこと、聞いてたか?」
「マコ、何て?」
一瞬、あきれた顔をした紀藤は、まあいいさ、と笑った。
「──行こうぜ。ここでの、最後の試合に」
「え──……?」
「2部生活とはおさらばだ。だろ?」
「……そ、うだな」
できる限り自然な笑顔で応じると、神前はポジションへと駆け出す。




