四万人のファンに囲まれる夢
「あとは、曽根兄弟とか、フォロワー数の多い人たちがリツイートしたりもしてくれたおかげで、おまえの書き込みを目にした人間は、ざっと十万近いんじゃないか」
「それって……千人の、何倍? 百倍? やっぱりネットって、こえー」
「おまえなんかいいよ。もっとアレなのが」
あ、とピッチから戻ってくる人物を認めて、紀藤が愉快そうな笑みをたたえた。
「江野。親愛なる元チームメイト殿、こと女帝のすがたはあったか?」
ふいっ、と視線をそらした江野が、足元だけを見ながら階段を降りてくる。
「知りません。何のことだか分かりません。そんなところに突っ立ってたら邪魔です」
「え、何なに、何の話?」
すれ違う江野のジャケットの袖を引けば、至極嫌そうな顔が神前をふり返った。
「つまらない与太話に興味なんて持たなくていいので、試合に集中してください」
「……ハイ、スミマセン」
謝って手を離した神前は、階段を上がりきった紀藤の背中をあわてて追いかける。
それからおよそ五十分ほどが経って、練習着姿でウォーミングアップのため再びピッチへと出てきた神前は、またしても階段を登りきったところであぜんとスタンドを仰いだ。
「こら、いきなり止まるな、神前」
「紀藤っ! 満員? これって、満員?」
「んー? まあ、満員まではいかないが、四分の三くらいは埋まってそうだな」
神前の隣に並んできて、メインスタンドまでをぐるりと見まわした紀藤が、自身の後ろ髪をくしゃりと撫でた。
「──神前。俺な、ずっと、トラックのない、二万人も収容できないくらいの……佐賀のニコスタみたいな小さな本拠地の方がいいのに、っておもってた。けど、考えを改めるわ。上限が二万のスタジアムじゃ、四万人のファンに囲まれる夢は見られねーもんな」
「ちょ、カメラ! 紀藤が目をキラキラさせて夢を語るのなんて、俺、初めて見た」
「そりゃ、コンタクトだからだ、バカ。──でも、これがこの一年、俺たちがやってきたことの成果なんだな。……悪くない眺めだ」
肘で小突かれバカ呼ばわりされた神前は、口をとがらせたまま無言でうなずきを返した。
紀藤はもちろん、逢坂と羽角、それにすべての選手が、ファンに向けた精いっぱいのアピールを行ってきたからこそ、ファルケンが最強だった六年前と同じように、また、たくさんの人に応援してもらえる日が来たのだ。




