表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作戦名はKFJ!  作者: 十七夜
第39節 (A)
76/97

唯一のカード

「おまえも、オレといっしょに横浜来る?」

「横浜か……それもいいな」


笑う逢坂につられたのか、羽角も微笑む。


「今なら、オレとおまえ、セットで欲しがるところも、けっこうあったりして?」

「そうだな。おまえといっしょなら、1部でもどこでも、活躍できそうな気がする」

「休みの日は、オレと観光地めぐりだから」

「いいよ。好きなところにつき合う」


うなずいた逢坂のカーディガンの胸元を右手で掴み、半歩近寄った羽角は、色をつけたような赤いくちびるをやや上向かせる。


「なァ、大和……」

「蓮?」

「オレ……本当は、ずっと、────」


逢坂の肩口に顔を伏せ、羽角は何事か囁いた。

後頭部を抱くように左手を添えた逢坂が、なめらかな美声で囁きを返す。


「知ってる。──俺だって、同じきもちだ」


ハックシュン、と。


唐突なくしゃみの声に、逢坂と羽角は一斉に同じ方向をふり向いた。

そこには、右手で鼻の下をこすりながら、左手をぶんぶんと振っている神前が、バスタオル一枚を腰に巻いた姿で立っている。


「ご、ごめん! 邪魔するつもりじゃ……」


言われたことを理解したとたん、羽角は目の前の逢坂を両手で突き飛ばした。


「ちっ、ちがう! これは、ちがうんです。誤解しないで、神前さん……!」

「直さん、いつからそこに? 早く、服着てください。風邪をひきますよ」


至って冷静な声で、逃げ腰な神前を逢坂が手招く。


「うん……いや、もう一回、風呂で温まって来ようかな。そうした方がいいかも、うん」


ひとり、ぶつぶつと言い訳をして、神前はそそくさと浴室に取って返した。

サンダルを脱いで、シャワールームに隣接する浴室に入り、後ろ手に戸を締めてしまってから、ふう、と白くけぶる湯気の中で息をつく。


「びっ……くりしたあ」


いつもなら、すぐさま携帯を引っ掴んで、紀藤にどうしよう、と相談をするところだ。

けれど、今はそうする気も起きないし、そうするまでもなく返る答えは分かる気がした。


「なわけあるか。仮にそうでも、おまえがとやかく言うことじゃない。とか、言いそう」


口調までも頭に浮かんで、神前は苦笑する。

が、すぐさま反ばくするだろう自分も容易に思い描けた。


「…………どうしよう、紀藤?」


羽角を残すことができなければ、いっしょに、逢坂も出て行ってしまうかもしれない。

それも、有り得ない、と紀藤は一蹴してくれるだろうか。

それとも、そうなったら例の作戦のせいだと、いっそう責任を感じさせてしまうのだろうか。


タオルを剥ぎ、湯船に浸かると、神前は浴槽のふちに乗せた両腕に左頬を置いた。

ゆっくりと瞑目すれば、世界にひとりきりだったような三年前に、きもちがふとタイムスリップする。


「──どうする、俺?」


問えば、今、自分に切れるカードが、頭に浮かぶ。

紀藤に問えば、おどろくほどに数が増えていくそれも、神前自身で手にしているのは笑えるほどの枚数でしかない。

けれど、それが現実だった。

そして、何ひとつないよりは、ずっといい。

──昔も、そうおもったことを思い出す。

重ねた腕に顔を伏せてしまうと、クスン、と神前は人知れず、鼻をすすったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ