チームの変化
「そうだ。最後に負けたのは、第22節。以来、十五連勝中だ。……監督の方針は、去年からはっきりしてる。疲労が見られる選手は積極的に休ませ、大きなケガでの離脱をなるべく防ぐ。そうしていれば、チームが大崩れすることはないからだろう。が、スタメンを入れ替えれば、レギュラーに比べて力が劣るとか、連携が上手くいかないとか、ふつうはマイナス面があるもんだ」
「でも今季、レギュラー外の選手のモチベーションは、めちゃくちゃ高い。……だろ?」
片目を閉じる橘に、逢坂があ、と声をもらした。
神前も、まぬけに口を開ける。
「控えの選手にも応援してくれるファンが増えたから、みんな張り切ってたってこと?」
「それだけじゃねーよ。あんまりいっしょにプレーしたことがない選手でも、ファンにアピールしたおかげで、俺たちまでその特徴とか性格とか、だいぶ分かるようになった。こいつはテクニックに自信がある、ならボールを持ちたいはずだから足元に出してやろうとか、スピードがあるやつだからディフェンダーの裏にパス出して走らせてやろうとか、こいつは慎重だから早めにボール受けに行ってやった方がいいな、とかさ」
思い出したように、目の前のグラスを手に取って、橘はウーロン茶を飲んだ。
「あと。最大の変化は、羽角じゃないか? 能力は高いが、あいつは連携面に難があった……去年はな。今年は始めからだいぶ味方を研究してたけど、意識的には味方を生かすパスを出そうって方向で、悪く言えばボールといっしょに責任を丸投げしてくるようなところがあっただろ。でも、夏ごろから、チャンスには自分から絡んでくるようになったし、いつも出てないメンバーが入れば、自分がポジションを変えて動きやすいようにフォローしてやるようになった。逢坂のために、ペナルティエリア内で自分が潰れ役になったりな。殻にこもってたサナギが脱皮して蝶になった、ぐらいの変化だよ、あれは」
橘がぽん、と紀藤の左肩を叩いた。
「すべての変化の源は、たぶん、こいつが立てた一連の作戦だ。それが皮肉に働いたんだとしたって、俺は紀藤を褒めてやりてーな。おかげで、くるくる変わるメンバーと刺激的なサッカーをやれた。挙げ句、勝ちまくってるんだから、こんな楽しいことはねーよ」
ぽんぽん、と肩を叩かれた紀藤が、今、どんな顔を橘に向けているのか、神前からは窺えない。
ただ、心から、橘が居てくれて良かった、とおもう。
神前には、紀藤の心を軽くすることばも、江野を怒らせずに済むことばも、まるで分からないのだ。
「……俺も、今季のうちは、結果に見合ういいチームだっておもいます。何もせず、ただ売られるだけだったより、ずっといい」
逢坂が浮かべたのは、あきらめの笑みだ。
いやだ、と神前は内心で首を振る。
紀藤の顔を見れば、当たり前のように目が合った。
メガネの奥のその瞳が、冷たかったことなど、ただの一度もない。
こんな時さえ、紀藤はすべて分かっていると言わんばかりに、神前にうなずきをくれる。
「逢坂を残すだけなら、簡単な方法がある」




