感じる責任
椅子に座っているつもりで仰け反った神前は、危うく後ろにひっくり返りそうになる。
ぱちぱちと幾度か瞬いた逢坂が、紀藤の顔を見て、納得したようにうなずいた。
「つまり……スポンサー料を穴埋めするつもりで増やしてきた収益は、全部、監督の給料に消えてしまうってことなんですね?」
「…………まさに、振り出しに戻る、だな」
やれやれ、と橘も自分の頭をかきまわす。
神前は、紀藤の右腕を掴んだ。
「それで、責任感じてんの? でも、全然おまえのせいじゃないよ、そんなのっ」
「勝手なこと言わないでください」
紀藤の前から、かたい声がぴしゃりと言う。
「逢坂が売られるのは嫌だ、何とかしたいって、この人に泣きついたのはあなたでしょう。頼りにしておいて、結果が伴わなくても、責任を感じることはないって言うんですか? だったら初めから、どうにかしようなんてしなきゃいい。──あなたが本当に望んでいたことだから、叶わないことに、責任を感じてしまうんだ。結果が動かない限り、薄っぺらな気休めを言っても変わりません」
厳しい江野の視線に、神前は何かを言おうと口を開いた。
けれど、何と言っていいのか分からず、ただ、ぱく、と空気を食む。
「頼ったのは俺も同じですから、直さんだけを責めないでください。ただ、俺も、紀藤さんには何の責任もないとおもいます。気休めだとしても、それだけは言っておかないと」
「いやー、どうかなー。俺はちょっと分かる気がするけどな。紀藤が責任を感じるワケ」
逢坂の向かいに座った橘が頬杖をついて、哀れむように紀藤の顔を見た。
「……そうだ。俺に、責任はないかもしれない。でも、原因は俺にある。間違いなく」
神前は、紀藤の腕を掴んだままの左手に、ぎゅっと力を込める。
こぼすように、紀藤がかすかな笑みを返してきた。
「要するに、今季のうちは、フロントはおろか、監督の想定さえも越えて、勝ってしまったわけだ。シーズン後半に入る夏場、だいたいどこのチームも疲れが出たり、怪我人が出たりで戦力が低下する。一度対戦したことで、相手から研究されてしまう面もある。よほど選手層が厚くない限り、前半と同じペースで勝ち続けるのは不可能だ」
「でもさ、うち、後半戦ってほとんど負けてない──ていうか、連勝中? 最後に負けたのっていつだっけ?」
「……粉飾決算が発覚して、チーム内がごたごたしてたあたりでしょう」
あえて江野は、神前に殴られた翌日の試合だとは、言わないでおく。




