勝ち点のマックス
アルファベットのUを縦割りにしたような、急激な上昇を描く曲線を、神前は凝視する。
「──こんなのアリ? 監督の給料が、こんな出来高契約って、ふつう、有り得るの?」
「有り得ないだろうなー。でも、分かる気はしなくもねーよ。ここのフロントは、無駄金はとにかく払いたくねーわけだろ。監督の方は、実績ゼロ。選手時代の知名度も皆無。それで監督に雇ってもらおうとおもったら、低い基本給設定を受け入れて、出来高に賭けるしかねーよな。思惑は、見事に一致してる。有り得ない契約も、このチームとあの監督の間でなら、有り得るだろ」
橘が、あきれきった笑いを浮かべて言う。
神前だって、笑い飛ばしてやりたいが、紀藤の顔色を見れば、そんな気こそ吹き飛んだ。
不意に、席を立った紀藤が棚を指さす。
「神前、定規とペン、借りていいか」
感情を殺した平坦な声に、神前はただぶんぶんとうなずいた。
テーブルに戻ってきた紀藤は、紙を手元に引き寄せると、グラフの中に赤で、曲線の上で直角に折れる線を四つ、描き入れる。
「勝ち点七五が、昇格ライン。八五が、優勝ライン。九〇なら、ダントツ優勝ラインだ。そして、勝ち点一〇〇……これが、2部リーグの歴代最多記録、カッコ、四十二試合換算で、ということになる」
「……さっきのグラフの、問題点って──」
これ以上ないぐらい、江野の眉間のしわが深くなった。
紀藤が、素っ気なくうなずく。
「分かったか? こっちのグラフ。グラフ自体が間違っているとはいえ、勝ち点に応じた年俸額はきちんと読み取れる。しかも、昇格して一五〇〇万、優勝したら三〇〇〇万、出てくる額は至ってまともなわけだ。目標の勝ち点九二も、一見、意味不明な数字とはいえ、報酬で言えばおおよそ五〇〇〇万になる。おかしかないよな、そこまでは」
裏返された紙の一点を、江野の指が打った。
「でも、──勝ち点のマックスは、一〇〇じゃありませんよ。残り五試合、全勝すれば勝ち点は一〇七になる」
うなずくと、紀藤は全員の顔を見まわす。
「上限を設定しておかなかったのは、フロントの、明らかなミスだ。が、そんなことを今さら言っても、この事実は変わらない」
ぺらり、と再度、紀藤は紙を裏返した。
「勝ち点一〇七のとき、監督の年俸は、一億三五〇〇万になる──」




