緊急招集
茘枝@九犬十愛 @redlitchi99 10月26日
何ダこの試合!
優勝したからもう勝たなくていいっての?
そう言ってくれたら見に行かないのに!
マジ、サイテー!!
「緊急で、今度はこの人の家に集合って、何なんですか、いったい」
いつもの調子で文句を言いながら椅子を引いた江野の声に、向かいに座る紀藤がノートパソコンの画面から顔を上げた。
「ああ、すまない。謝る」
とたん、ぎょっ、と表情を変えたのは江野だけではなく、先にテーブルについていた橘も、おどろいた顔で部屋の主を仰ぐ。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
テーブルにグラスとマグカップを置きながら、神前は分からない、とただ首を振った。
「あとは、逢坂だけか。──神前、プリンター貸してくれ」
「え、ああ、うん、使って。そこにある」
紀藤に向かって壁際の棚を指さし、神前は二リットルのペットボトルのふたをひねる。
無言の中、こぽこぽとウーロン茶を注ぐ音がひびいた。
続けて、プリンターがヘッドを行き来させる音が、しばらくは部屋の空気を支配する。
そして、その音も消えてしまったころ、ようやくもう一度チャイムが鳴った。
リビングに入った逢坂は、すでにそろっている年長者の顔を見て謝罪のことばを口にしようとし、すぐにべつのことに気を取られる。
「紀藤さん? 顔色が悪くないですか? 気分が悪いなら、すぐ横になってください」
「平気だ。俺のことなんざどうだっていい」
手を払いつつ一蹴した紀藤は、神前がリビングに持ち込んできた折りたたみ式の脚立を見て、椅子を立った。
神前の部屋に集合をかけた時点で、椅子がひとりぶん足りないことは、紀藤の計算に入っている。
「神前、俺がそっちに座る」
「いいよ、俺がいちばん背が低いから、高さ的にちょうど釣り合いがとれるし。それより、どういう話なのか、説明してくれる?」
神前は、努めて明るい声を出そうとするが、やはり緊張が顔をのぞかせてしまう。
集まる場所の提供を求めながら、紀藤は神前にも事前にはいっさい、用件を明かしてはくれなかった。
練習後に別れたところまでは至ってふつうだった紀藤の顔色を、たったの二、三時間で何が一変させたのか。
神前にはまるで分からないが、バッドニュースであることはたしかだった。




