優勝メンバー
「無理もないんだ。俺たちと違って、あいつらは三年間、降格争いしか経験してない。もう、くたくただったんだとおもう。優児だけじゃない。みんなが、育ったチームのことを嫌いになってた。だからもう、ここに残るのは俺しかいないって、そうおもったんだよ。でも──」
神前の瞳が揺れる。
「売られるはずだった五人のユース組の中で、チームは俺だけを残してくれた。全試合出場してチームに貢献してたやつじゃなく、俺を選んだ……それって、おかしいよな?」
「いや? それはチームが、おまえの経験の方を買ったん──」
途中で、紀藤は、唐突に悟った。
察したらしい神前が、くしゃくしゃな顔で微笑む。
いちばん最初、唯一獲得しているタイトルのところから話を始めた、その理由は──
「言われたんだ。俺とあんたの差は、レグルス杯の優勝メンバーかそうでないかだけだって。チーム唯一のタイトルを知る選手だから、優児の代わりにあんただけが、売らずに済ませてもらえるんだ、って。……そのとおりだっておもう」
神前は、あえぐように息を継いだ。
「あいつは、ここに残りたかったわけじゃないんだ。ただ、たった一年の差で、チームからもサポーターからも扱いが違う俺のことが腹立たしかったんだよ、ずっと。俺は、あいつらにとって、すこしも先輩じゃなかった。苦しいときに助けることもできないくせに、その経験で優遇だけされる、ずるいやつだとおもわれてたんだ」
「神前。もういい。それ以上言うな」
テーブル越しに、神前の目尻を拭いながら差し入れた手を、髪に絡めて引っぱる。
うつむいた神前が、自分の手をハンカチ代わりにしてくるのを、紀藤は黙って受け入れた。
空いた手でマグカップを持ちあげ、二度、紀藤がのどを潤したころ、ようやく神前のぽうっと子供のように温い手が、紀藤のそれを開放する。
「ごめん──」
「いや、謝るのは俺の方だ。……静岡戦のとき、おまえのことばにまともに取り合おうとしなくて悪かったよ」
目を見開いた神前が、無言で首を振った。
「次の試合、2部リーグとはいえ優勝が決まれば、少しはおまえの負担も軽くなるかな」
「──次、決まるとおもう?」
「今夜の試合で、逢坂たちがケガでもしてこない限りは、大丈夫じゃないか。まあ、あと一勝で決まる辺り、遅かれ早かれだけどな」
「うんん。次がいい。レグルス杯の決勝は国立だったから。今度は、ホームで──サポーターの前で、優勝を決めたい」
「そうだな。みんなで、勝って、祝おうぜ」
紀藤がテーブルに立てた右手に、右手を組み合わせると、ぎゅっ、と左手で包み込むようにして、神前は深くうなずいたのだった。




