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作戦名はKFJ!  作者: 十七夜
第36節 (H)
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移籍意思と残留意思

かたい顔で、神前が首を振る。


「ちがうんだよ。優児が移籍金を残して出て行かなかったのは事実だ。でも、チームに本当に一円も入ってないわけじゃないって、おまえなら分かるだろ。優児が契約延長を拒否してる、ってマスコミに情報流してチームはことさら被害者ぶってただけ。でも、優児は、契約を延長しちゃったらぜったいに出て行けなかったんだよ。チームは違約金と引き換えに他の選手は全部売る気でいたけど、優児だけは何があっても手放すまいとしてたから」


紀藤が、心底あきれたようにため息をつく。


「利害、というにしたって、一方的だな」

「曽根さんたちが居なくなっても、マコがレンタルに出されても、優児は残ってる仲間のために頑張ってくれてた。なのに、優児がひとりで頑張るほど、優児さえ居ればいいってまわりはおもう。もしかしたら、同期のやつらさえ、ファンに愛され、チームに必要とされてるあいつはしあわせ者だとおもっていたかも。……俺にも、優児が平気でいるのか、それとも苦しいのか、全然分かんなかった。俺にできることは、曽根さんたちに言われてたとおり、あいつを頼らないでいてやることと。いいからおまえの好きにしろって、言ってやることだけだった」


ぽつ、とマグカップの中に波紋が起こった。

のばした手を、紀藤は神前の頭に乗せる。


「──そうか。赤間優児をここから出したのは、おまえなんだな」


こくり、とうなずき、神前は鼻をすすった。


「誰よりファンに愛され、誰よりチームから必要とされていたやつを、出て行かせた……それが、おまえの背負ってる責任なのか?」

「そんなの俺のせいじゃないって、言う?」

「言って、何かが変わるならな。でも、やつが勝手に出て行ったんだとしたって、おまえが背負うものは変わらないだろ。赤間優児がひとりここに残って背負わされるはずだったものを、おまえが背負ってるってだけのことだ。チームの歴史とか、ユース育ちのブランドとか、ファンの期待とか、そういったもん、全部を」


紀藤は、顔を上げた場所に掛かる、額装を見つめる。

神前が描いたという、古ぼけたチームエンブレムのフラッグの絵。

話を聞くかぎり、赤間優児ではなくその絵を描いた神前こそがチームに残り、その将来を背負ったことは、まったくの正解だったと紀藤はおもう。

が、能力で測った場合の適性は、また別なのかもしれない。


「ひとつ、謎が解けた。どうしておまえが、あれほど逢坂を大事にしたがるのか──」


赤間が移籍しても変わらずチームを応援するサポーターは、神前をチームの顔として認めている。

が、当の神前自身は、自分では曽根兄弟や赤間優児の代わりになど到底なれない、とおもっているのだ。

問えば、自分はディフェンダーだし、代表にも入ったことがないし、とか何とか言うのだろう。

紀藤には、訊くまでもないことだった。


「ひとつ確認するが。おまえは、赤間を出て行かせてやるためだけに犠牲になったんじゃないよな。おまえ自身は、もし誰かに好きにしろって言われたとしても、チームに残っていたはずだ。ちがうか?」

「そうだよ。俺は、ここに残りたかった」


言い切った神前が、くちびるを噛む。




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