失われた夢
「最初は、優児と他ふたりの予定だった。マコと潤のふたりは、トップの選手がたくさん減ったせいでトップに昇格できることになったようなもんだよ。優児は、同期のやつらと居るのが好きだったから、滝田さんはそれでやる気を出させようとしてたのかも」
紀藤が、あからさまに怪訝な顔になる。
「──天才、赤間優児、って俺でもそう呼ばれてたのは知ってるけどな。代表なんかで見る限りじゃ、何がそんなにすげえんだか、さっぱりだ。天才っていうなら、もっとすげえやつもいるだろ? 滝田さんが、ごきげんをとろうとするほどの選手だったわけか?」
「んー、と。俺に言えるのは、曽根さんたちが居なくなったあと、サポーターが完全に離れて行かなかったのはまだ優児が居たからだ、ってことと。優児は、べつにサッカーの天才ってわけじゃないらしい、ってことかな」
「サッカーじゃなきゃ、何の天才なんだ」
「分かんない。マコは、知ってるかも。曽根さんたちも、知ってるみたいだった」
握り込んでいた手をほどくと、神前はマグカップを両手で包んだ。
まだ、じんわりと手のひらに熱が染みてくる。
「優児は、俺より早く、トップの試合にデビューしたから。先輩である曽根さんたちにとにかくかわいがられてて、優児もアニキって呼んで、ふたりのことを慕ってた。優児は、特定の人間以外にはすっごく無関心で、好きな人間は端から見ててすぐ分かるんだ。俺の知るかぎり、あいつが心を寄せてた人間は、曽根さんたちと、マコたち同期だけ。──だから、曽根さんたちが売られたことを誰より怒ったのは、優児だった」
「高校生でデビューしてたにしろ、プロ入りは江野たちと同じで、曽根兄弟と入れ替わりになっちまったわけだ?」
「うん。……まわりは子供の駄々みたいに相手にしなかったけど、俺は、優児がどんなに、大好きな人たちに囲まれてプレーすることを楽しみにしてたか分かるから──許せなかった気持ちも、当然だとおもう。俺も、あのころずっとおもってた。もしも、曽根さんたちと、ユースを全日本で優勝に導いた原動力の優児とが、一年でいいからいっしょにプレーしていたら、ここはどんなチームになってただろうって」
こく、と紀藤は紅茶を飲み下した。
「それが、ファルケンサポーターの失われた夢、ってわけか」
「想像できるだろ。優児さえも出て行ったとき、サポーターがどれほど失望したか」
「──それがまた、寄りにもよって、ユースから全国区の選手が昇格して来ようってのと入れ替わりのタイミングだしな」
呪われてんじゃないのか、と軽口でも叩きたいところを、紀藤はさすがに自重した。
「しかも、裏切りのゼロ円移籍、とくれば」




