匿名でリサーチ
「ふうん。じゃあまあ、本題に戻って、ファン感な。今年は、ファンクラブの会員が去年から倍増してるらしい。当日入会で、もっと増える可能性もある。こっそり聞いた話だと、新規会員は八割が二十代前後の女性だそうだ。既存のファンはもちろん新規ファンにも満足してもらって、来季も応援してもらえるようなイベントにしたいわけだ。どうすりゃいいとおもう、キャプテン?」
眉間にしわを寄せた江野が、腕を組む。
「他のチームの傾向は、文化祭タイプと体育祭タイプに分かれるみたいですね。うちは今まで体育祭タイプでファンとふれあっていましたけど、親子連れを想定していたこれまでに対して、若い女性のファンが増えているとなると……運動的なことが果たして喜ばれるのか、という気はします。とはいえ、十一月下旬の屋外は寒いので、体を動かした方が暖かいのもたしかですけど」
「うん、まあ、おまえはちゃんと予習して来てえらいよな。そこは評価するよ」
「そこしか評価できなくて、すみませんね」
「橘さんは、どっかでおもしろいことやってたとか、これがウケたとか、ありませんか」
「まともな線なら、選手の私物オークションとかかなー。その場でサイン入れて渡せば喜ばれるし、人気がある選手だととんでもない争奪戦になってけっこうおもしろかったりするよ。単なるウケ狙いとかなら、流行りの曲を歌い踊るのが定番だろ。さらにウケを狙うなら、女装とかな」
誰ともなく、黙ったままの逢坂を見つめた。
と集中した視線に、あざやかな微笑が返る。
「しろと言うならしますよ。どんなに気色悪いことになっても、責任は負えませんけど」
「……逢坂にコスプレって意見はけっこうあるんだよな。でも、女装の要望はなかった」
テーブルに置いたタブレット端末に指で触れた紀藤を、江野がじろりとにらんだ。
「──待った。要望って何ですか?」
「ちょっとばかし、匿名でリサーチしたんだよ。まあ、大して参考にはならなかったが。歌い踊ってくれってよりは、何とかってゲームキャラのコスでセリフを言ってくれとか、誰それのコスでいっしょに写真撮って欲しいとか、逢坂に関してはそんなのばっかだ。訊いた先が悪かった、許せ」
ハイ、と声とともに、神前が手を上げる。
「提案。それならいっそ、公式サイトでファンに意見を募るってのはどう? 正式に、選手会の名前で。どうせ告知はサイトでやるんだし、来てくれる人みんなの意見を聞く方が公平じゃない?」
紀藤はいくつか返るうなずきを横目に、メガネを押し上げた。
「この日にファン感やります、何して欲しいですか、って流れ的におかしかないか? ファンのためのイベントなんだから意見を聞いたっていいようだが、選手がホストでファンはあくまでゲストだとするなら、内容まる投げってふうにも取られかねないぞ、それは」
とたんにしぼんだ顔で、神前は助け船を求めるように橘を、次いで江野を見る。
「……選手が自前で考えるべきだっていうなら、あとは選手からアイデアを募るしかないんじゃないですか。妙案が出るとはかぎりませんけど、案だけ良くても実行できなければ意味がありませんし」
「そうだなー。ファンに訊けばたしかにてっとり早いけど、その分、当日の内容がネタバレになっちまうんじゃつまんねーよ、神前」
定位置のお誕生日席に座った橘が、ぽん、と神前の肩を叩いた。




