2部キングのジンクス
「……俺も、いっしょに行っていいのか? 2部キングのジンクスって、知らねーの?」
紀藤と神前は、顔を見合わせる。
「──橘さんを獲得したチームは二年以内に昇格できる、ってやつですか?」
焼けたカルビを小皿に取り分けていく江野のことばに、神前はやおら指を折った。
「ああ、すげえ、ほんとに二年で昇格だ!」
「江野、ジンクスには続きがあるだろ?」
ちら、と橘に視線を投げると、江野は表情を変えることなく、首をかしげてみせる。
「さあ、知りません」
肉をゆっくりと咀嚼してから、橘が言った。
「俺を2部に残して行けば、そのチームが一年で降格することはない、だってよ」
「鎌倉、一年で落ちちゃってますけど」
「……鎌倉は、ジンクスを信じて俺にゼロ円提示したけど、それまでは全部、俺が自分からチームを去ったんだ、って言ったら?」
さすがの紀藤も、それには黙ってしまう。
ゼロ円提示というのは、所属クラブから来期の契約を締結する意思がないことを通知されることで、戦力外通告と同義、俗に言えばクビになったということだ。
「俺が最初に入ったチームは1部の名古屋で、三年間で公式戦の出場はゼロ。クビになって拾われたのが、昇格を狙う2部の新潟だった。二年目に昇格が決まったとき、いっしょに1部に行っとけばどうってことなかったんだ、多分。でも、そのとき、俺はもう結婚してて、子供も居て……1部には一試合も出られずにクビになったトラウマしかなくて、怖じ気づいちまった。次の年、一年で京都の昇格が決まったときもな、降格してきた広島からぜひって誘われて移籍する方を選んだ」
橘が、自嘲的な笑みを浮かべた。
「一年で広島も昇格して、俺のところには昇格を目指すチームからたっくさん誘いが来たよ。例え2部のチームだったとしても、うちにはおまえの力が必要なんだって、口説きになかなか来ないだろ。契約の条件はどんどん良くなるし、やり甲斐もある。1部でベンチに居るよりずっといいとおもったんだよ」
橘は、左手を上げると、指を折る。
「新潟で二年、京都、広島が一年ずつ、北海道が二年、宮城が一年、鎌倉に二年いて、それからここ、福岡が二年……十一年間で2部ばかり七チームを渡り歩いて。あと、四国に行けば日本の八地方も制覇できるし、なんか、このまま2部キングとして選手生命を終えるのも悪くないかも、とかおもわなくもねーんだよな」
「そんなっ。橘さんが居なくなったら──」
「やめとけ、神前。妻子を養ってる橘さんに、おまえがどうこう言えることなんかない」
「でもっ、紀藤」
食い下がる神前を視線で制して、紀藤は橘をじっと見た。




