昇格のち降格
「ちなみに、前半戦の平均と比べると、ホームここ五試合で三万人ほど多く人が入ってる。前年の入場料収入と観客動員数から出したひとり頭の単価をかけると、五〇〇〇万くらい上乗せされる計算だ。ホームは、残り四試合。近々、優勝まで決まれば消化試合になってしまうとは言え、目標の金額くらいはクリアできそうだぜ。どうだ、安心したか?」
紀藤の話を真剣な顔で聞いていた江野が、ほっとしたように微笑を落とす。
「それなら、いいんですけど」
「マッチデーもここ一、二戦、バンクナンバーに増刷かけたくらい好評らしい。とくに、長野戦のときの、逢坂の特集号な」
とたんに、江野の顔が引きつった。
「……あそこまでやるのは、どうかと」
「法に触れない範囲でって条件だから、上半身しか写してないぜ。シャワーシーンがあざとくならないように、要望の多い、アウェー戦移動日の行動を紹介する企画にわざわざ紛れ込ませたし。出停のモリさんについて来てもらう羽目になったのは完全に想定外だったが、試合に出れない憂さを晴らしたんだか、試合のこと考えないぶん気楽だったのか、あんなノリノリで逢坂を追っかけまわしてくれて。モリさんの写真の株は急上昇してコーナーまで生まれたし、ファンにも喜ばれて、そのうえ収入にも貢献できてんだから、いいことしかねーとおもうけど?」
「わざわざって、よく言うな。前泊で羽角を同室にしたのまで、全部計算ずくでしょう」
「たしかに。でも、どうせあれ以来ずっと同室で、どっちも文句言わずに仲良くやってんだからいいじゃねーか」
「おかげで、俺はこの人とずっと同室です」
「え……俺と同室、そんな嫌? 俺、おとなしく寝てるって、あれ嘘なの、紀藤?」
「寝てる間じゃありません。寝るまでずっと、なんでこの人が部屋に入り浸るんですか」
「江野、よそ見してると肉がこげるぞ」
紀藤のはぐらかしに、江野はため息をつく。
「何でもかんでも思いどおりに運んでいい気になっていたら、足元すくわれますよ」
「嫌なこと言うなー、江野。勝ち点剥奪よりか現実的なのは、チームは昇格してめでたく金銭面もクリアしたのに俺だけ戦力外、とかか? そうなったら指さして笑っていいぜ」
「…………」
恐い顔をした江野が何か言うよりも早く、橘が、それとも、とつぶやいた。
「みんなで仲良く1部に行ったはいいけど、一年ですぐ降格しちゃったり、とかな」
三人の視線が、ジョッキを持った橘に注ぐ。
「──次当たる、鎌倉のことですか?」
一昨年のシーズンに鎌倉が2部優勝を果たしたとき、橘はその主力メンバーだった。
が、昨シーズンは1部で最下位に沈んだため、今季はまた2部へ転落してきている。
「い、一年で落ちるのは怖いけど、降格を怖がってたら1部じゃ戦えないし! 一年目だろうが二年居ようが、一度も落ちたことがなかろうが、どこだって降格する可能性は公平に持ってスタートするんだからさ」
横から伸びてきた手が、神前の肩を叩いた。
「1部で戦った経験がある選手っていうのは、さすが頼もしいな」
「こ、降格のプレッシャーの中で戦うことも経験してるんで。次は、みすみすチームを落としたりしません。ぜったいに」
ぎゅっ、と神前は橘のアロハシャツを掴む。
「だから、ああああ、安心して、俺たちと1部に行きましょ、橘さんも。ね?」
「安心出来ねえってよ、その口調じゃな」
揶揄する紀藤に、神前は頬をふくらませた。




