隠語と検索避け
「よく分かんないけど。ひとに飲ましてからじゃないと自分は飲まない、的なルール?」
「──うーん。よく分かんねーが、説明読んだ限りじゃ、グラスを空けるたびにひとに一気飲みを要求するルール、みたいだぞ。そりゃそうだよな。グラス渡したら、すぐ空けてもらわねーと自分に戻って来ないし。これ、お猪口レベルならともかく、グラスでやるところがさすが高知って感じか」
「そういやしてたかも、一気。焼酎を、グラスでだよ? しかも、ストレートのやつを、すんごいうっれしそーに飲むんだよ。かわいいけど、酒に強くないと、あいつといっしょに飲むのは無理!」
「へえー。羽角って、あんな佳麗な見てくれで酒飲みなのか、意外。見てみたかったな」
「橘さんって、そんな強いんでしたっけ?」
「焼酎一気飲みできるほどじゃねーけど。五人居れば羽角が十杯飲んだってこっちは二杯ずつだろ。逢坂が差しで飲めるなら、俺たちは眺めてるだけで済むしさ」
「いや、そういうもんでもないみたいですよ。返杯って仲良くなるためにやるみたいなんで、少なくとも一杯はつき合わされるんじゃ」
納得したように、神前がうなずく。
「そっか。それで、羽角と逢坂ってあんなに仲良くなっちゃったんだ?」
「いっしょに酒飲んで仲良くなるってところが、あれで男らしい羽角っぽいよな。ネット見てると、あのふたりがどこそこでデートしてたって目撃情報がけっこうあるぞ、最近」
「えっ……デートしてんの、あのふたり?」
一瞬、個室に妙な沈黙が流れたところで、どこか韓国語なまりの店員がカルビだらけの大皿を運んできた。
ごく、とのどを潤してから、紀藤がため息をつく。
「誤解を招くような言い方をして悪かった。目撃した人間がデートだと解釈してるってだけで、当人たちにそのつもりは毛頭ないものとおもわれる」
「というか、ネットのどこら辺にそんな話題があるんですか。この二ヶ月くらい、たまに検索かけたりしてますが、羽角たちのことがとくに話題にのぼっている様子は、どこにも見受けられないんですけど」
皿から網の上へと肉を移動させながら、江野がどうでも良さそうな口調で言った。
その横顔をしげしげと見てから、紀藤は、ばしん、と玉虫色のシャツ越しに肩を叩く。
「ちょっと、肉が落っこちる」
「あはははは。おまえって、ほんっと……」
「──ほんと、何です?」
笑うだけで答えず、紀藤はにらむ江野の右肩をなだめるようにくり返し叩いた。
「そうかそうか、二ヶ月も、ひとりで効果のほどを心配してくれちゃってたわけだな」
「逢坂はともかく、羽角には頼んで協力してもらってる責任ってものがあるでしょう」
「観客、ちゃんと増えただろ。練見だって、前よりずっと多いし。公式サイトのカウンターだけでも、毎日どのくらいの人間が見てるかくらいは分かるぞ。羽角たちの話題は、おまえが検索で拾うのは無理だ。女帝といっしょで基本、隠語だし。本当に盛り上がってる場所には検索避けがかかってるからな」
それで何であんたは拾うことが出来てるんだ、と問いたげな顔をしたものの、江野は、そうですか、としか口にはしない。




