選手会長vs主将
「まったく人のことは言えないが。そういうひとにGMをさせていることが、問題なんじゃ?」
隣に座る橘の冷静な指摘に、紀藤はくしゃ、と髪をかいた。
「同感ですが。予算を大幅縮小して現社長が来た年から、強化部長だった滝田さんの肩書がGMに変わってます。人件費の削減ともとれるし、社長が金銭面を掌握するためともとれますが。ともかく、ここ六年ほどのチームの浮き沈みはこのフロント体制に寄るもの、と言えるでしょうね」
「浮き沈みって……このチームがこの六年で、いったいいつ浮いたんです」
怪訝な顔で、江野があごに手をやる。
七年前に1部リーグで優勝争いをして以来、ここ三年の2部リーグ暮らしを含め、沈みこそすれ、浮いたとはたしかに言い難い。
顔を上げた神前も、うなずいた。
「ばか。今まさに浮いてる最中だろうが。前半戦二十一試合を終えて、十五勝四敗二分け、勝ち点四十七。堂々の、首位だ。今季の1部昇格はもはや確実、と言われている」
紀藤が並べた数字が正しいのか、とっさに神前には分からない。
よくそんなの憶えてるな、と感心するが、昇格が確実視されていることは、事実だ。
「客観的に見て、今の戦力は1部チームにもそう引けはとらない。予算額からすれば上出来で、滝田さんはまったく優秀な強化部長だ。何度、チームにとって替えのきかない選手を放出されようが、与えられた予算内でせっせとその穴を埋めてきた──それも、認めるだろ?」
神前は、机の上でぎゅっ、と左手をにぎり込んだ。
プロになって、未だ七年目。
なのに、神前にとって先輩と呼べるチームメイトはもう、誰ひとり居ない。
後輩さえも、多くがチームを去ってしまった。
「そうですね。一昨年のあなた、去年の橘さん、そして羽角と。結果からして、いい補強だったとしか言えないでしょう」
にこりともせず、素っ気なく応じた江野に、紀藤はものすごく迷惑そうな顔をする。
「ふたりと俺を並べるって、どんな嫌味だ。……まあいい。俺が言いたいのは、これまで選手を売ったりクビにしたりで金を捻出してきた某社長にとって、その結果が失敗だったという認識はないってことだ。──さて。それでも、今回の対処はフロントの仕事だから任せておけばいい、と言えるか?」
ダン、と神前はにぎり締めたこぶしを机に叩きつけた。
「言えるわけない! 割を食うのは選手なのに、人任せになんかしてられない。もう、仲間が居なくなるのは嫌だ……! みんなで力を合わせれば、きっとこのチームを、仲間を守ることができる。そうだろ?」
「…………詭弁ですね」
右隣から聞こえたつぶやきに、神前が目をつり上げて江野をふり返る。
「キベンって、何だよ?」
「詭弁とは。間違っているくせに正論ぶって──」
「紀藤、説明を訊いてんじゃないっ」
「仲間が居なくなるのは嫌? それはあなたの個人的な感傷でしょう。望むことは勝手です。でも、選手は毎年、かならず入れ替わり、チームは二度と同じメンバーで戦うことはない。そういうものだ。出ていく選手がゼロになることなんてないし、だからこそ新たに入ってくる選手も居るんです。どうしてもそれが嫌なら、あなたが出て行けばいい。残されることが辛いのなら、捨てて行けばいいんですよ。そうすれば、二度と、そんな感傷は味わわずにすむでしょう」