ふたりの後輩
前半三七分。
この日もペナルティエリアの手前やや右寄りの位置で、片手をゴール方向に上げた審判が高らかに笛を吹き鳴らした。
たちまち、いい位置でのフリーキックに対する歓声と、エースへのファールに対する怒号、その両方ともが入り混じって、スタジアムを揺るがすどよめきとなる。
長い距離を神前が駆けつける間も、ピッチに倒れ込んだ逢坂は左足を抱えてうずくまり、すぐに起き上がる気配はなかった。
わざと相手のファールを誘っている──と紀藤は評したが、それが何だと言うのか。
走っている間、神前は逢坂の真意をどこかで疑っていた自分を殴ってやりたいきもちでいっぱいになった。
おまけに、自身が倒した逢坂の体を気づかいとはほど遠い手つきで揺り動かす相手ディフェンダーのすがたを目にした瞬間、神前は、背中から怒りが吹き出すような感覚に襲われる。
「オイッ!」
猛然と残りの十メートルほどを駆けて声を発したとたん、ぐっ、と横から出てきた腕に行く手を阻まれた。
見れば、その腕には黄色のキャプテンマークが巻かれている。
「マコ……!」
「抗議は俺の仕事です。あなたにはあなたにしかできない報復があるでしょう」
いつでも冷静な視線を注ぐ後輩のことばは、まるで鎮静剤のように神前の胸にしみた。
担架を断ってゆっくりと体を起こす逢坂のそばに身をかがめ、神前はその表情をのぞき込む。
そばに転がったボールになど、見向きもしない。
「逢坂、大丈夫? 立てる?」
「い、てて……だいじょうぶ、です」
「おまえ今、抜こうとしたら相手、抜けたんじゃ──」
問えば、すぐに魅力的な苦笑いが返された。
「ですね。迷ったぶん、相手の足が深く入っちゃったみたいです。直さんの判断の早さを、俺も見習わないと」
あらかじめ用意されていたようなそつのない受け答えに、紀藤が作為めいたものを疑うきもちも分からないではない。
それでも、神前はもう一度、それが何だ、と切り捨てる。
ディフェンダーの前に体を張って、蹴られて、痛んで……そうして渡してくれたボールを大事におもうことに、わざとかどうかなど、すこしも、微塵も、関係がない。
神前はそっと逢坂の左足のスパイクに触れると立ち上がり、手を差しのべた。
「ありがとう、逢坂。大事に蹴るからな」
素直に手を取り、立ち上がった逢坂は、神前の額の高さから微笑みを降らせる。
「知ってます。直さんはいつもそうだから」




