百年後の旗
「羽角ー、おまえが持ってきたお酒って、氷以外何か入れる? うちカルピスあるから、カルピスチューハイは作れるかも」
「えっ。いえ、氷だけで、おねがいします」
壁際に立つ羽角が、ワインのボトルと黒い切子のグラスを手に歩いてきた神前をふり返り、A3サイズの額に飾られた絵を指さす。
「この、チームエンブレムの絵、かっこいい。神前さんが描いたんですか?」
「うんそう。ほら、ヨーロッパのクラブって創設百年とかざらだろ。で、百年後もファルケンがあったら、とか考えて描いたんだ。そっちが、飾られて百年経過した旗の絵でー。あと、トイレに、百年後はきっとホログラムだろうな、とおもって描いた絵もある」
「えー、見たい。トイレどこですか」
指示通りに廊下の扉を開けた羽角が、興奮したように逢坂を呼び立てた。
「──直さん、気をつけて。あいつ、あの絵、めちゃくちゃ気に入ってますよ。欲しい欲しいって言ってたんで、あいつが帰った後、もしかしたらトイレから消えてるかも」
先にトイレから戻ってきた逢坂が、パスタ二種類の器を運んで来ながら苦笑する。
「え、そうなの? そんな欲しいなら描いてやりたいけど、パソコン壊れちゃっててさ」
「あの絵、CGじゃなく手描きですよね?」
「そう、パソコンで透けたかんじとか浮かび上がったかんじとかどうなるか先に描いてみて、それ見ながら塗ったんだ。──四年前かな、俺、ケガして長く練習できなかったときがあって。そのとき、もしサッカーがダメになったら俺、絵を描くぐらいしか取り柄ないんだし練習しないと、とかおもって。完全に現実逃避だよな」
「でも、きっと、クラブを愛する直さんだから描ける絵だとおもいますよ。これも……」
逢坂が、壁にかかった古ぼけた旗の絵をじっと見つめて言う。
神前は頬をかいた。
「パソコンって、困るよな。いきなり使えなくなるし、修理に出そうにも中のデータとかそのままなのはちょっとな、って感じで」
ワインを開封しながらちら、と神前が視線をやった棚の一角には、あざやかな黄緑色のノートパソコンが無造作に置かれている。
ひと目で、ファルケンの親会社であるIGAの製品だと分かるカラーリングだ。
「パソコンも、ハード面の不具合なら直せるかもしれませんけど。見てみましょうか?」
「マジで? なんか電源は一応入るんだけど、OSが立ち上がらなくてさ。あの、黒い画面に字が出たまま、中身カラッポですがナニカ、的にうんともすんともいわないんだよ」
「……変な衝撃でも与えました?」
逢坂は棚から取り上げたノートパソコンを膝に置いて床に座ると、上ぶたを持ちあげ、さして迷いもせず電源を入れる。
「パソコンの寿命って五年とか言うからもう過ぎてんだけど。せめて、必要なデータぐらい取り出せないもんかなーと……」




