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作戦名はKFJ!  作者: 十七夜
第22節 (H)
4/97

ミーティングルームにて

  茘枝@九犬十愛 @redlitchi99 7月09日

 くじゃくの代表FW流出で苺姫激震なうw 

 ついでに、鷹がスポンサーに逃げられてピンチwとかいう鷹サポ激震ネタも拾ったwww 

 リアル蹴ファン乙。





「債務超過とは──」


翌日、午後。

場所をクラブハウスのミーティングルームに移して再招集された会議に、タブレット端末を手にした紀藤の声が淡々とひびく。

端末背面に貼られたステッカーの、盾に黄色の鷹とアルファベットのFがふたつあしらわれた紫の紋章は、福岡ファルケンのチームエンブレムだ。


「債務者の負債の総額が、資産の総額を越える状態をいう。つまり、資産をすべて売却しても、負債を返済しきれない状態である」


神前は、出そうになるあくびを必死のおもいでかみ殺した。

しとしとと降る雨の湿気と練習後の疲労感と食後のむずかしい話は、三重奏で眠気を誘う。


「ふつうの会社なら、これは倒産寸前らしい。うちが何億という債務超過を抱えてつぶれずにいた理由ってのは、置いとくが。ともかく、親会社のIGAがぽんと金を出して解消してくれたんでないことは、たしかだよな?」


紀藤の問いに、向かいに並んで座った神前、江野、逢坂の三人が大小さまざまなうなずきを返す。

彼らはファルケンの下部組織アカデミー育ち──つまりユースの出身で、紀藤よりもはるかにクラブ在籍期間が長い。


「そもそも、IGAが現社長を送り込んだのも、胸スポンサーを下りたのも、よけいな金を出したくないからだろう。ということは、今回に限って資金提供で一発解決してくれる、という望みも薄だ。──これも、共通認識でいいか」


こらえきれなかったあくびを手で隠した神前をじろり、とにらんで江野が口を開いた。


「だから何だっていうんですか。スポンサー料が入って来ない、とかいうのはそもそも経営の問題であって。どうにかするのは俺たち選手じゃなく、フロントの仕事のはずだ」


言い切った江野に、紀藤は瞠目した。

タブレット端末を机に置き、ぱちぱちと手を叩いてみせる。


「えらいな、江野。ちゃんと勉強してきたんだ?」

「ふざけるな。そのくらい、昨日から分かってた!」

「あっそう。まあ、正論には違いない。うちに居るのがやり手のGMだったら、俺もどこぞから新たなスポンサーを見つけてきてくれるのを期待して、選手らしくプレーに集中しとくだろうな」


紀藤のことばに、全員が同じ人物の顔を思い浮かべた。

自称、日本一の強化部長な、ゼネラル・マネージャー滝田征夫たきたいくお、五十才。

プロリーグ開幕当時は、ここファルケンで選手として活躍し、監督や育成総括などもつとめてきた生粋のサッカー人だ。


「滝田さんって、やり手じゃないの?」

「どこぞからいい選手を連れてくることにかけてはな。ただ、金銭面にかけてはからっきしだ。おまえ、よくあのひとが寮の食堂に来て若手と仲良く飯食ってるって言うだろ」

「え、うん。さりげなく、移籍してきた選手から情報収集とかしてるみたいだけど」


素直にうなずいた神前を、紀藤がバカにしたような目で見る。


「おまえ、気づいてないのか。食堂でおまえが滝田さんを見たって言ってるの、決まって月末だぞ。選手を食事に誘ってるのは、月初めが多い。どう考えたって、サイフの中身に行動が左右されてるんだ」

「え、ええええ……」

「自分の小遣いもうまいことやりくりできないひとが、チームの金のやりくりなんかできるはずがない。しかも、自分の奥さんからでさえ追加融資を引き出せないひとだぞ。経済、経営のプロと交渉してスポンサー料を巻きあげるなんて真似が、できるとおもうか?」


とちゅうで、神前は机に突っ伏してしまった。

聞かなかったことにして、このまま寝てしまいたい誘惑に駆られる。




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