カイザーリン
「まるで、白孔雀が羽根を広げたよう、か。ま、美しい羽根を持つのはオスだし、その点じゃ上手いこと言ってるよな」
「白孔雀はともかく、『女帝』っていうのはどうなわけ。あいつのどこら辺が、女っぽいんだ。中学ごろは、どうかしたら桜井より派手な美少年だったの、なんとなく記憶にあるけどさ。でも、いまだに童顔でカワイイとか言われてる桜井と違って、面影なくない? 背だって、けっこうでかいし」
「身長は、俺らと変わらないぐらいだろ」
「そうですね。俺と数ミリしか変わらないはずなんで、一八〇あるとおもいますよ」
「ほらー。女帝ってあだ名があいつのもんだとはおもわないって!」
「あだ名じゃない、隠語だ。昔、二年生皇帝って呼ばれてたんだろ。皇帝ってあだ名の選手は元々ドイツ人なんで、本来はカイザーなんだよ。で、あいつの臨って名前をみんな音読みするんで、カイザーリン。Rふたつをひとつにしたら、カイゼリンで、女帝って意味になる。まあ、俺に言わせれば、王様よりすごいからって皇帝と呼んだやつのセンスはどうなんだ、って感じだが」
「あなたは、昔のあいつを知らないから」
こぼすように、江野が苦笑を浮かべる。
「ドイツ語がどうとか知らないし、鈴木自身のイメージでもないですけど。でも、女帝って呼ばせてるのはまわりにいる人間なんだと、俺はおもってましたよ」
「ふうん。チームメイトのあいつへの従僕ぶりはけっこうなもんだって聞くけど、個人的にはそれもよく分かんねーな」
「あなたに分かるはずありません。あいつのチームメイトにならないと、あいつはただ、守備もしない、ろくに走れもしない、故障で休んでばかりの、使えない選手に見えるだけでしょう。でも、自分がすこしくらい多く走ることであいつがピッチに立てるのなら、そっちの方がいいってみんなおもうんですよ。あいつが居てくれた方がいい、あいつの存在にはそれだけの価値があるって」
「……おまえ、分かるか?」
「うーん。でも、長崎仰星って、活気のあるチームだったのはおぼえてるよ。なんか、監督に外から動かされてる感じじゃなくてさ。次はどんなことやって驚かせてやろうかって、仲間が集まってわいわい悪戯をたくらんでるみたいな雰囲気があったというか」




