二年生皇帝
「わあっ! すげえ! こういうの、昔、南米のすごいフォワードがやってなかった?」
味方のフリーキックからたまたま飛んできたクリアボールを、ゴールに向かった右胸の高い位置でトラップし、落ちてくる浮き球を左足のアウトフロントでシュート──
意表をついた、技ありのスーパーゴールだ。
同じシーンが、角度を変え、二度、三度と流される。
パボ・レアルの白いセカンドユニフォームを着たその選手の背番号は、12。
連呼される選手名は、鈴木臨。
神前が、口もとに手をやり、しげしげと画面の向こうに目を凝らす。
「────あ、のさあ。この選手って、もしかして、長崎仰星の17番? 名前、鈴木って、あいつだよね。ちがう?」
視線を向けられた江野は、苦笑を浮かべた。
「そうです。ユース時代、同じリーグにいた長崎仰星の、桜井陽斗の後輩ですよ」
「やっぱり。っていうか、もしかしてこいつのことなのか、例の佐賀の女帝とかいうの」
これには江野は答えずに、紀藤へと視線ごと受け流す。
「そういや、長崎仰星とファルケンユースって、あのころはどっちも強くて九州のU-18リーグに居たから何度も対戦してるんだな。……ていうか、おまえ、去年も一昨年もあいつと試合やってるだろ!」
「えーっ、いろいろ別人、だよな?」
「あなたは、10番時代のあいつを、知らないから」
うつむいて、江野はかたく両手を組んだ。
「たしかにもう、別人としか言いようがないでしょうね、17番時代のあいつとは──」
視線だけを動かして、江野は紀藤を見た。
膝が悪い、というのが実際のところどの程度なのかは、一年間チームメイトとしてそばにいた江野にも、はっきりとは分からない。
けれど、高校三年時に左膝を痛めたまま試合に出ていたこと、膝のケアにどの選手よりも神経を払っていること、そして、肩を脱臼してもまるで痛みを訴えていなかったことは、江野の知る事実だった。
「でもさ、今のシュートを見たら、よみがえったよ。王様桜井陽斗よりも輝いてた、あの二年生皇帝! 勝手に消えた気でいたけど、違ったんだ。鈴木っていっぱい居るから紛らわしいとおもわない?」
「そんなのおまえだけだ、と言いたいところだが、今日、同じことおもったやつは多そうだな。選手権も連覇してるはずだけど、三年のときはあんまり派手な活躍はしてなかったみたいだし。佐賀に移籍する前も、1部の広島じゃ公式戦の出場はなかったんだろ。七年ぶりぐらいか、全国的に脚光を浴びるのは」
腕を組んだ紀藤が、ふとたくらみを含んだ笑みを浮かべる。
「今ごろ、ファンが沸いてるだろうな。佐賀への注目が高まれば、遠征組が増えてうちに流れやすくなるかも。あと数節でデーゲームになるし、このタイミングは有り難い」
うん、と神前がうなずきを返した。
「ちょっと納得。あんなふうに、時々でも昔みたいなプレーをするなら、生で見たいってファンがいるの分かるよ。あいつのプレーには、手品を見てるような出し抜かれる快感があって、敵ながら俺、けっこうファンだったもん。うちにも天才と呼ばれるやつは居たけど、ボールを操るテクニックに関しては頭抜けてたとおもうよ。な?」
同意を求められた江野が、どこか機械的な口調で、そうですね、と応じる。




