ミドルシュート炸裂
結果的に。
キーパーが退場になってでも守ろうとしたゴールは直後のフリーキックでも破られることはなく、試合は開始から八五分を過ぎても、両チームが無得点の展開となる。
──そして。
2部の一位と二位の直接対決はスコアレスドローのまま終了か、とおもわれたアディショナルタイム寸前の、八九分。
ひとり少ない状況で、なかなか人数をかけた攻撃が出来ずにいるファルケンに、待望のチャンスがおとずれた。
現監督がチームに徹底させるルールは、至ってシンプルなものだ。
すなわち、味方のミスには持ち場を離れても守備をし、相手のミスには持ち場を離れても攻撃すること。
江野のプレッシャーを受けた相手が出したバックパスが、逢坂が反応できる範囲へと来る。
つま先で触れてコースを変えたボールは、相手よりも早く走り込んだ羽角が従えることに成功した。
そのときだ。
ルールに沿って迷わず前へ出ようとした神前の目の前が、きれいに開ける。
サイドバックの神前には、そんな光景はべつに珍しいことではない。
ただし、フォーメーションの変更から、中盤の底、ボランチの江野と並ぶ位置へとポジションを移していたこのときは、開けた先に、ゴールポストが見えた。
ゴールに背を向けていた逢坂がこちらを指さすのと、羽角、と神前が声を上げたのはおそらくは同時だ。
くるりとふり向きざまに、羽角がインサイドキックの速いパスを送ってくれる。
フリーキックからゴールを狙うときはいつも数人の壁が立ちはだかるのに、ゴールからは真っ正面、にも関わらず、今そこにいるのはキーパーひとりきりという見通しの良さに、神前はおもわず笑いそうになった。
ゴールの上隅を狙ってカーブをかける必要も、何もない。
ただ、左足をおもいっきり、振り抜くだけ。
ずいぶん昔に聞いたような大歓声が、ピッチを打つ。
やべえ、上に蹴り過ぎた、ととっさに神前はおもった。
が、おもっていた以上にゴールまで距離があったらしく、ネットを揺らしたときは地面すれすれの高さまでボールは落ちて、結果オーライとも言うべきシュートになる。
横っ跳びをしたキーパーは失意に沈み、再度、もっと大きくスタジアムが歓声に沸いた。
五分以上あったアディショナルタイムは、羽角以外の全員が自陣に退いて守備をすることで乗り切り、ファルケンは一対〇のままで試合終了のホイッスルを聞いた。
「あー、なんか、シュークリームが食べたい。クリームパンでもいいな」
まろやかなカスタードクリームの味を思い浮かべながら整列をしたあと、神前が相手の選手と握手を交わしていると、差し出した手を避けるようにして、誰かの右手が近づいて来た。
意表をつく動きに、ぎょっと顔を上げたところ、元チームメイトと目が合う。
「じゅ、ん──」
ぐっ、と胸ぐらを掴まれ、そこまで嫌われていたのか、と一瞬、神前は動転した。
が、まさかこの衆目の中で殴りかかりはしないだろう、とおもい直す。




