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作戦名はKFJ!  作者: 十七夜
第28節 (H)
29/97

キーパー退場

  茘枝@九犬十愛 @redlitchi99 8月17日

 神の人が35メートルのロングシュートを決めたとかいうんで、深夜の鷹戦を録画することに。

 相手が静岡じゃなかったら放送なかったよ。ラッキ。


  茘枝@九犬十愛 @redlitchi99 8月18日

 補講なう。

 クラスの女子が昨日の試合の話してるけど。

 キーパーシネ? ファンぶっといて、シネって何? 何様なわけ?

 くそリアルファン、おまえらこそシネ!


  茘枝@九犬十愛 @redlitchi99 8月18日

 意地で90分見てやった。あれで、キーパーシネ?

 客が二万入ろうが、中身があんなバカじゃ、戦ってる選手が不憫…





「──神前」


いつになく重い声が、ふっと陰った右側からかかる。

すでに日は落ちたが、照明に八方から照らされたピッチはまばゆいぐらいに明るい。

神前は、目にしみる額の汗をすっかり湿ったユニフォームの袖で拭った。


「んな情けない顔してるところ、カメラにしっかり撮られてても知らないぜ」


視線を向ければ、紀藤はおもったほど恐い顔はしていない。

タッチラインの外に転がる水のボトルを拾い上げ、紀藤も浴びるようにのどを潤した。


試合は、後半の二五分をまわった辺りで、すでに一分以上中断している。

中断する前のプレーでゴールキーパーがファールを犯し一発退場になったため、急遽、控えのゴールキーパーがウォーミングアップをしているところだ。

ユニフォームに着替えて出てくるまでは今しばらくかかりそうで、逆サイドではベンチから出た監督が江野を呼びよせ、綿密な指示を与えている。


「……良かったな、キーパーの退場、交代カードを使い切る前で」


キーパーが退場になれば、フィールドプレイヤーをひとり下げた上で代わりにキーパーを入れなくてはならないが、もし三人の交代枠を使い切っていたら、フィールドプレイヤーの誰かがグローブをつけてキーパーを務めるより他はなくなってしまう。

もとより、そういう状況下であれば、キーパーの選択は違ったものであったはずだが。


「で? おまえ、試合前から、ずっとだな。何がそんなに気になってる?」


ワントーン落ちた声に、神前はびく、と瞳を揺らした。


「言え。交代枠が残ってりゃ、これ以上ミスを犯さない内に自ら交代を申し出るなんてこともできたが、もうラストまでプレーするしかないんだ。──モリさんの分までな」


神前は、審判がレッドカードを掲げた瞬間、悔しげに地面を叩いたキーパーを思い出す。

彼にあんな顔をさせたのは、他でもない神前だった。


後半早々に、交代枠をふたつ使って攻撃のカードを増やしたものの、昨季1部でも失点数だけはリーグ平均より少なかった静岡の持ち前の守備力は健在で、いまだゴールは奪えずにいた、矢先の退場劇だ。

せっかく増やしたフォワードはひとり下げざるを得なくなり、試合が再開されれば、ペナルティエリアの外五十センチからの相手の直接フリーキックという大きなピンチが待っている。

それでも、得点、もしくはペナルティキックを与えるという絶体絶命のピンチを、寸でのところで回避できたのは、キーパー森山の果断があったからに他ならない。

神前の出したパスが相手フォワードに奪われた、まさにその瞬間に飛び出す判断をしていなければ、シュートを打たれる前に、ましてやペナルティエリアの外で止めることなどぜったいに出来なかったはずだ。


「試合中はゲームに集中しろなんて、俺なんかに今さら言われるこっちゃねーだろ。できない理由はなんだ、あと一分で解決してやるから話せ、さっさと」

「…………潤が──元チームメイトが向こうに居るんだけど。声、かけられなくて。俺、あいつに避けられてるみたい」


紀藤が怪訝な顔をする。


「着替える前、江野と話してたやつだろ。何で。あいつとはふつうに話してたぞ」

「そりゃ。あいつら同期は、今でもオフにはいっしょに自主トレしてるくらい仲がいいし。俺は、レンタルに出てたマコと違って、あのときチームに居たユース組の中でひとりだけ、ここに残ってるから……」

「だから何だ。静岡に移籍したならあいつは1部に留まったんじゃねーか。恨まれる筋合いがどこにある」

「でもっ。あいつ、静岡に行って苦労してるんだよ。ポジションはサイドにされたし、五輪にも行けなかったし、それに、去年またチームの降格を経験してさ。あんなつらい想い、もう一回したんだ。なのに俺は、ずっとここに居て、すごい恵まれてるっていうか──」


どこら辺が恵まれてるんだ、とぜひ紀藤は問いたかったが、時間に限りがあるのでよけいなことは訊かないことにした。


「分かった。声かけて、例え筋違いな恨み節だろうと直で聞いて、見当違いなことこの上ない謝罪ができたら、それでいいんだな?」


栓をしたボトルをぽい、と地面に投げ捨てながら、紀藤がかなり投げやりに言う。


「紀藤……おまえね」




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