甘党と辛党
「神前さん。どれですか、おすすめの夏スイーツっていうの」
「あ、ああ。えっとね、そっちの店の──」
「おまえが方向音痴のくせに頻繁にデパートに通うのって、菓子が目当てだったわけか。紀藤さんあたりに、女子か、って突っ込まれそう」
「黙れ。オレがやないき。実家のおなごらが送れって催促するき、仕方なく──」
「姪っ子がふたり居るんだって。羽角、これこれ、家で凍らせて、シャーベットにするやつ。イチオシはマンゴー味。こっちの、ナイアガラ味のジュレも超美味くておすすめ」
ショーケースの上に並んだバラ売り商品を指さすと、さっそく羽角がサイフを取り出す。
小ぶりの瓶をひとつ手に取ると、逢坂もしげしげと眺めた。
「ナイアガラ味って、どんな味なんですか」
「ナイアガラって青葡萄で、すごくいい香りがするんだよ。うちに箱買いしたナイアガラワインがあるから、今度、いっしょに飲もう。ひとりじゃ一本飲みきれないから、たいてい紀藤のところに持って行って、彩ちゃんと飲むんだけど」
そしてたしかに紀藤から、甘いものばっかり、おまえは女子か、と突っ込まれている。
「お待たせしました」
手慣れた様子で伝票を記入して配送を頼んだ羽角が、邪魔にならない場所で待っていたふたりのところへやってきた。
本題が片づいたところで、そういえば、といかにもついでを装って、神前が切り出す。
「台湾かき氷、食べて行かない?」
唐突な申し出に、後輩ふたりがふしぎそうな顔をした。
「いや、あの、今だけここにお店が来てるんだって。外、暑いし。せっかく来たんだしさ。俺、おごるから。つき合って」
実は、羽角にすすめた商品を販売するショップはこの天神地区にあと二店舗あるのだが、あえてこのデパートに連れて来たのはそれが目当てだった、とは言わないでおく。
なぜなら神前には、チームの栄養士に寮の食事を食べに来いと厳命されるほど、プロのスポーツ選手にあるまじきカロリー摂取を行った前科があるからだった。
菓子パンと野菜ジュースとゆで卵と牛乳、デザートに季節のフルーツかフルーツのタルトケーキ、という朝食を出寮から約一ヶ月にわたり続けていることを告白して、妙齢の女性に襟首を掴み上げられたことだけは、忘れられないトラウマになっている。
以来、砂糖──栄養士はショ糖と呼んでいたが──は悪、という認識だけは持ち合わせているが、甘党なのは変えようがない。
「直さんは、マンゴーが好きなのか……」
催事スペースの前に掲げられた看板の写真を見て、逢坂がぽつんとつぶやく。
ううんマンゴーより練乳が好き、とは口に出さず、神前はカーゴパンツのうしろポケットからサイフを取り出した。
「ふたりは、マンゴーのやつにする? それとも、豆とかいろいろ載ってる方?」
「あ……神前さん。こいつ、甘いものそんな好きじゃないんで、オレたちは半分ずつで」
「え。そうなの?」
神前が視線を向けると、逢坂が羽角と何やら意味ありげな視線を交わしていた。
「ええっと。──ハイ、ひとつを蓮とふたりで分けて、ごちそうになります」
逢坂にしてはどこかやけくそめいた微笑みを浮かべてみせる。
会計を済ませた神前は、角切りマンゴーがたっぷりと載ったプラスチックのカップをふたつ受け取ると、エスカレーター横にあるテーブルスペースで待つふたりの元まで運んだ。
最初、ふたつ付けてもらったスプーンそれぞれを手にし、ひとつのカップから氷をすくうふたりの仲むつまじい様子をほくほくと見ていた神前だったが、その後は自分が食べることに夢中になったため、途中からスプーンを動かしているのが実は逢坂だけだったことには、ついに気づくことはなかったのだった。




