デパ地下・洋菓子売り場
茘枝@九犬十愛 @redlitchi99 8月10日
聞いてないし聞く気もないけど、ネトラジが原因で『鷹のハス受はじめました』なリアル系サイトが増殖してるらしい。
あのイケメン、ドラマCDをおもわせる攻声って、どんなwww
「な、なんか視線がイタイ。どうしよう、羽角」
左横を歩くベージュのTシャツをむんずと掴んだ神前に、羽角はまるで季節はずれの白梅がぽっ、と咲くがごとく、微笑んでみせた。
「簡単です。──今すぐ帰れ、逢坂!」
ふり向くなり一変した表情も、逢坂はどこ吹く風といった様子で笑って受け流す。
「蓮。俺のことも、名前で呼ぶ約束だろう」
「そんな約束、しちょらんき。せめて三メートルくらい離れて歩け、オレたちから」
急に立ち止まって言い争いを始めた背の高いふたりは、よけいに人目を引く。
しかも場所が、見渡すかぎり八割か九割は女性ばかりという、デパート地下の洋菓子売り場だから、なおさらだ。
神前は、うつむきがちに羽角の腕を引いた。
「やめよう、羽角。道の真ん中で止まったら、もっと目立つ」
「だから、逢坂は置いて来ようって言ったじゃないですか。デパ地下に逢坂なんて、浮きまくるに決まってるのに」
「だって。生まれも育ちも市内なのに、デパートに買い物なんて行ったことないかも、とか言うし」
ぼちぼち前進している間も、追い越して行く人、すれ違う人、必ずと言っていいほど逢坂の顔を見上げていく。
時折、ファルケンの、という囁きが聞こえるのは、知名度が上がったという点では喜ばしいことのはずなのに、街を歩くという点では意外にやっかいだな、と神前はおもわずにいられない。
当の逢坂が、微笑んで会釈なんかを返している辺り、神前とは器が違うとしか言いようがなかったが。
「それに、逢坂って個人主義っていうか。マコといっしょで、誘ってもあんまり乗ってきてくれないから、貴重だとおもって」
もしかしたら、羽角が居るからいっしょに来たのだろうか。
ちらりと逢坂の顔をふり返れば、にっこりと微笑まれ、それからぐっと腕を掴まれる。
「直さん、よそ見してるとあぶないです。人とぶつかりますよ」
「あ、うん。ありがと」
「蓮も、どうしてこんなふうに素直に返せないんだろうな。すぐ、ウザイとか怒ってさ」
「頭撫でられて怒らん方がどうかしちゅうき。そういうことは女の子にし、や、が、れ!」
「はいはい。そう言うから、名前で呼ぶことで許してやったのに」
「許すの意味が分からんき……」
「ラジオの収録中は、しおらしく呼んでおいてさ。おかげで俺ばっかりしゃべる羽目になっただろ。ゲスト、ほんとはおまえひとりのはずだったのに」
「おまえ、馴れちゅうくせに文句言うな」
ローカルFM局のファルケン情報番組は、月に一度、トークゲストに選手や監督が呼ばれることが慣例となっている。
内、三回に一回は逢坂が出演しているのは、声がラジオ映えするというだけでなく、落ちついた受け答えにも定評があるからだ。
いっしょに出て、と言われた神前は、ほとんど反射的に羽角の懇願を逢坂へとたらい回した。
「いや、ほんと、ありがと逢坂。最近、取材だ何だっておまえずーっと忙しいのに、せっかく空いてた日までよけいな仕事させちゃって、ごめんな。気疲れとか、してない?」
「大丈夫です。直さんに心配してもらったら、吹っ飛びました」
にっこり微笑む逢坂から視線を引き剥がすように、羽角が神前の腕を引っぱる。




