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作戦名はKFJ!  作者: 十七夜
第26節 (H)
24/97

雑誌の取材

こちらに歩いてきた逢坂が、お疲れさまです、とつやのある声をかける。


「どうしたんですか、こんな時間まで」


取材の約束は、午後三時。

練習が終わってから、とうに二時間半が経過していた。

もちろん、もうクラブハウス内に他の選手のすがたはない。


「羽角がやっぱり取材ムリ、とか言うんで、逃げないように神前と見張ってたんだ」

「なぁ逢坂、さっきの女のひと、何でここに?」

「こないだ髪を切ってもらったときに取材が今日だって話をしてたんで、写真を撮られるまえにチェックしに来てくれたみたいです。ここに来ると誠さんに迷惑がかかる、とか気にしてたんで、来てたことは言わないであげてください」


どちらからともなく、神前は紀藤と顔を見合わせた。

もしかして顔を合わせるとまずかったのは自分たちなのでは、とおもったが、紀藤も同じことを考えたらしい。


「写真っ! 写真、嫌だ。神前さん、代わりに撮られて」

「おまえらふたりの取材なんだっての。神前が写ってどうする。おまえさ、ユース代表に居たんだろ。こういう取材、受けたことないのか」

「ないです。オレ、代表っても控えだったし。無名の田舎高校生、なめないでください」

「なぜ威張る。選手権の開幕戦で優勝候補を倒したんだろ。注目されただろうよ」

「準決勝で負けるまで、選手権の記憶はないです。なんか、気づいたらグラニに入ることになってて、オレの身に何が起こったのか、いまだに謎というか」


紀藤と神前は、もう一度、顔を見合わせた。

逢坂が、大きな手で羽角の頭をぽん、と撫でる。


「大丈夫、だいじょうぶ。楽しんで写れば、楽しんでる顔に写るのが写真だから」

「楽しゅうないき! 頭に触るな、せっかくきれいにしてもらったのにー」

「ハハ。蓮といっしょで俺は超、楽しいよ」


笑いを含んだ声も顔もあまりに端整すぎて、神前には、逢坂が羽角を口説いているように聞こえた。

きっと、ただの冗談だと、神前はあわてて疑惑を打ち消す。


「心配するな羽角。おまえ、カメラ映りは悪くないから。ホームページの写真だってよく撮れてた。写真変えてすぐ、取材が申し込まれるぐらいな」

「うん。写真変えてから、アクセス数が増えたって。……ちょっと俺の立場がないケド」


公式ホームページのトップ画像は、試合告知のちらしづくりの段階で、早々に、神前と逢坂の生え抜きコンビから逢坂と羽角の五輪世代コンビの写真へと切り替え済みだ。

目下、2部リーグのゴールとアシストのランキング一位なふたりでもあるからか、神前を偏愛する傾向にあるサポーターからもおもったほどの反発はみられない。

五輪世代、というのは現在二十一才以下の選手を指す。

これは、二年後にある五輪に出場できるのは二十三才以下のチーム、という規定がサッカーにはあるからだ。

対して、ワールドカップなど年齢制限のない国際Aマッチに出場する代表チームのことはA代表の他、フル代表と呼ばれることも多い。


「ともかく、羽角に言っておくのは、ひとつ。インタビューには好きに答えていいけど、五輪に関してだけは、出たくないとか逢坂といっしょは嫌だとか、ナシで頼むな」

「大丈夫です。五輪はちゃんと、海外に行きたいからすごく出たいし。代表に行くなら、誰か道連れがいた方が……」

「道連れじゃなくて、道案内?」


顔をのぞき込むようにしてからかう逢坂のすねを、羽角が蹴りつける。

もちろん、ごくごく軽く、ではあるが。


「逢坂、おまえには、江野からの命令。羽角の方向音痴はネタにするなってさ」

「かわいいのに? もったいない」

「かわいくないき。ぜったい嫌だ。バラしやがったら金輪際、口きかない、おまえとは」

「本人がこう言ってるからさ。俺も、せっかくの萌え要素を隠すのはもったいない、っていうか、萌えネタにする以外、何の役にも立たねーのに、とおもうけど」


むう、と目を据わらせた羽角の肩を笑って叩くと、紀藤は親指で神前を指さす。


「そうむくれるな。俺は帰るけど、これは置いてってやるから」

「これ? っていうか、置いてかれても、俺、関係ないのに居たら恥ずかしいじゃん」


羽角はさりげなく神前のTシャツをつかんで、帰すまいとする。

逢坂までが真似をしてTシャツを掴んだので、神前は何だか保父さん気分を味わった。

園児なふたりの方が神前よりも背が高いという、傍目にかわいくない図ではあったが。

紀藤は、ロビーを見下ろすことができる吹き抜けの二階を指さした。


「あそこにいろ。おまえの取材、何度か見てたことあるが、気づかれないから」

「はあ? ちょっと。ふたりの取材を俺が見てても先輩面できるけど、おまえに見守られてるのがバレたらめちゃくちゃ恥ずかしいだろ。どうする気だったんだよ」

「後輩面して、後学のためとか言っとくさ」


あっさりと返され怒りどころを逸した神前は、紀藤を見送ってからおよそ四十分後、言われたとおりの場所でブルーのガラケーを耳に当てていた。



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