来季までの宿題
「仮説って?」
「おまえに対して、ツンデレな態度をとる理由ってやつ。要するに、嫌ってるどころか、心の底じゃあいつはおまえを先輩と慕ってて、おまえの力になりたいとおもってるんだ」
ぱち、ぱち、と神前が瞬いた。
「え、そうなの? ダメ出ししかされてない気がするんだけど」
「でも、おまえのこと嫌いで言ってるんだとは、実はおもってないだろ?」
「だって。マコは昔っから変わらずに、俺のこと『直くん』って呼ぶから。あいつ、昔はチーム想いの、やさしい後輩だったんだよ」
「今だって、根はチーム想いだけどな。変わったのは、レンタルから復帰して以降か?」
「分かんない。レンタルに出される前から、チームもあいつ自身もそんなにうまくいってなかったとおもうし。ただ、俺に殴られるような冷たいことばかり言うようになったのは、レンタル以降かな」
紀藤は納得したようにひとつうなずき、ジーンズから取り出したスマートフォンで時間を確認する。
「なぁ、理由って何。仮説、おしえて」
「仮説だから、おしえない。ただ、そう考えればいろいろ納得がいくなってだけ」
集合場所の駐車場へ向かうべく歩き出した紀藤のすぐうしろをついて行きながら、神前はやがて、ぽつんと訊いた。
「──それ、マコが帰ってきてくれた理由と関係がある?」
ぴた、と階段を下っていた足を紀藤が止める。
背中に激突しそうになって、神前はあわてて紀藤の体を左にかわした。
「あっぶね。急に止まるなって」
「おまえも気になってたわけか?」
「そういうわけじゃないけど。単純に、三年前に降格したとき、ここで育ったみんなが去っていく中で、マコだけが、ここに帰ってきてくれた。今にしてみれば、チームが上向きになってた佐賀から、落ちてる最中だったうちにだよ。俺は、ここに守りたいとおもうものがあったけど──マコは、一度はチームから要らないって言われたようなものなのに。だろ?」
紀藤は、リングの光る左手でくしゃりとうしろ髪をかいた。
「本当は佐賀に残りたかったのに、か。だとしてもおどろかないけどな。……ただ、帰ってきた理由は、あいつが語らない以上、真相は分からないさ」
「嘘。俺のためだって、おもったんだろ。マコが俺に対してツンケンしてるのは、それを悟らせないためじゃないかって。ちがう?」
ふ、と紀藤が笑う。
あきれたような笑みは、バカにしているようにも取れるし、困っているようにも取れて、真意はつかめない。
「深読みしすぎだ。俺は単に、あいつにとってはここよりもいいとおもえるチームがあったからこそ、ここに縛られてるおまえに反発するのかな、とおもっただけだ」
ふたたび階段を降りようとする背番号4を、神前が引っつかむ。
「嘘つき。それ、優児は関係ないし、帰ってきた理由になってない」
「理由なんてもっと単純で、佐賀には要らないって言われただけかもしれないぜ?」
「そーいうこと言うから、おまえはマコに嫌われるんだよ!」
「やっぱり嫌われてるっておもってるんじゃねーか。いいさ、俺はけっこう好きだしな、あいつのこと」
冗談めかした紀藤のことばに、神前はまっすぐな同意を返した。
「俺も好き。だから俺、マコが帰ってきて良かったっておもえるようなチームを作りたい。マコみたいに、きつい時間帯に仲間の分まで走ろうとする選手を、もっと評価してくれるようなファンでいっぱいのチームにしたい。分かりにくくても、うちのチームを支えているのはマコの、地味ぃな頑張りなんだってことを、もっともっと、知って欲しい!」
「──おまえな。地味に、力込めすぎだ」
肩を小突かれながら、神前は紀藤のゆったりとした微笑みを見る。
「そりゃ結構な難問だから、来季までの宿題にしといてくれ」
それは、来年もここに紀藤と江野がいることを前提としたことばだ。
そうと気づいて、神前は大切な約束として、うなずきとともに胸に抱きしめたのだった。




