試合告知ちらし配布作戦中
茘枝@九犬十愛 @redlitchi99 7月25日
天神でちらし配布中の鷹選手に遭遇!
なんか一部人だかりができてたけど、イケメン横にビジン配置で、アレは何を狙ってんの?
どんなファンを増やしたいんだかw
「あのふたり、上手くやってるかなぁ」
ふと、左手に持っていた試合告知のちらしを右腕の束に戻して、神前は背後をふり返った。
信号を渡った向こうにある天神駅の周辺では、五人ずつで二手に分かれたグループのもう一方が今ごろ同じちらしを配布しているはずだ。
神前たちは、買い物客を狙ってデパートの出入り口付近に居るが、これは人通りの多い場所よりも、コミュニケーションをはかるだけの時間的余裕があることを見込んでいるらしい。
数歩の距離にいた紀藤がメガネを押し上げ、同じように駅の方を見た。
「さあな。羽角には逢坂の言ってることを真似して、とりあえず笑っとけって言っといたけど。あそこまで化けたら、もう下手な笑顔も必要ない気がするな。あれ、ちょっと髪型いじっただけだろ。何で、あんなに変わるんだ?」
昨夜、寮の食堂で見かけたときはしばらく誰だか分からずに見入ってしまい、羽角だと分かったときはあんぐりと口をあけて、手にした夕飯をまるごと落っことしそうになった神前だった。
「もう、もう、全国放送とかで見せびらかしちゃいたいぐらい、かわいいよな。顔は変わってないはずなのに、目とかきりりってしてて、一段と迫力が増したっていうかー」
高校を出てから、とりあえず伸ばしっぱなしだと言っていた、ややくせのあるやわらかそうな黒髪は、わずかにアッシュ系に色を抜かれ、シャギーを入れたストレートラインにすっきりとカットされていた。
整えられた眉はぴんと上向きで、前髪の下から現われたぱっちりとした二重の眸に羽角らしい意志の強さを宿らせたように、神前はおもう。
「逢坂のやつ、素で褒めまくって、蹴り入れられてたな」
「だろ。俺が褒めても全然なのに、逢坂相手だと、あいつすごい邪険でさ。ほんとにあのふたりで組ませて、大丈夫だとおもう?」
紀藤は、ユニフォーム姿の神前をじろじろと見た。
「何?」
「いや。単に、やきもちじゃないかとおもうけどな。おまえに懐きまくってるだろ、羽角は。恩があるおまえに頼まれたら嫌とは言わないだろうとおもってたら、案の定で。でも、それが逢坂のため、っていうのが気に食わないんじゃないか」
「おまえ、それ、計算して──」
神前がにらむと、するりと視線を避けるように動いた紀藤が、笑顔をつくる。
通りがかりの五、六十代とおぼしき女性ふたり連れに、ファルケンの選手であることを名乗りながら、一枚ずつちらしを手渡した。
さりげなく、若い選手がたくさんいることをアピールして、お時間があればぜひおふたりで、と来場を乞うところまで、実にあざやかな話術だと神前は感心してしまう。
「……俺の分も配って、紀藤」
「ふざけるな。ともかく、他にはお友だちも居なさそうな羽角の足下みてヨコシマな頼みごとをしたからには、原稿の手伝いになんか来ないで、なるべくあいつを構ってやれよ」
「ちょっ。足下って、見たことになるの、俺? 羽角が恩を感じてるなんて知らなかったんだってば」
「仮にも先輩を電話一本で道案内に呼び出しまくっといて、恩のひとつも感じてないとおもわれてた羽角の方が、よっぽど文句を言いたいんじゃないか。いいから、あいつの趣味にでもつき合ってやれば?」
「あいつの趣味って……デパ地下巡り?」
「ハァ? そりゃ、おまえの──あ」
あ、と顔を見るなり言われた相手は、むっ、と眉をしかめ、腕を組んだ。
「何、話し込んでるんですか。他のやつらは、みんな真面目にちらし配ってますよ」
上だけユニフォームを身につけた神前たちとは違い、江野はいつものごとく長袖のシャツ姿だ。
スタンドカラーなせいか、スポーツ選手には見えないぶん体格の良さが目を引く。
意識して見れば、江野の格好はたしかにおしゃれかもしれないと神前はおもった。
「不参加なやつに言われたくない。つーか、何しに来た? つーか、やっぱり来たな」
「なっ、やっぱりって何なんだ。俺は、たまたま近くに来たんで、様子を見に──」
「そうそう。様子を見に寄っただけで、べ、べつにアンタの手伝いに来たわけじゃないんだからねっ、とか言うんだろ。言っていいぞ。どうせ手伝わせるしな」
「…………」
複雑な顔で黙り込んだ江野のシャツの袖を、つん、と神前は引いた。
「ありがと、マコ、手伝いに来てくれて」
「っていうか、どうせ来るなら、マスコットの着ぐるみでもつれて来いよ」
「どうやって?」
「中に入りゃいいだろ。たちまち、おんな子供に大人気だぞ。うれしいだろ?」
「…………」




