女子高生=茘枝
「かわいいカノジョで思い出した。神前おまえ、女子高生を、ナンパでもしたのか?」
「は? ハァ!? しないよ! するわけないだろっ。っていうか、ナンパなんてできたら、休みの日にここに来てないから!」
「……そうだな。っていうか、べつに彼女が居なくてひまだからって、彩音の同人誌の原稿の手伝いなんか断わっていいんだからな」
「だって、彩ちゃんが修羅場だと、紀藤が飯作ってくれるからさ。俺も、そういうときは絶品な生春巻き、リクエストしやすいしー」
「おまえはほんとに色気より食い気だな。まあ、今日も食わせてやるから待ってろ。それより。そこのタブレットでネットのブラウザを開いて、ブックマークの、女子高生ハテナ、って書いてるやつ、見てみろよ」
キッチンに入った紀藤は、手を洗いながらカウンター越しに声を投げてくる。
神前が言われたとおりにしてみると、短文投稿系SNSのページが現われた。
「昨日、女帝のフォロワーのプロフを片っ端からチェックしてたときに見つけたんだ。女帝ファンからうちの話が出てくるのがめずらしくて目に留まったんだが。二、三日前の書き込み──引っかかるだろう?」
「この、鷹がスポンサーに逃げられてピンチ、とかいうやつ? でも、粉飾決算の話は噂になってるんだろ。どこが引っかかるわけ?」
「笑われまくってんじゃねーか。女帝フォローは友だちの影響みたいだし、本人はあくまで二次元ファンにしたって……アンチリアル以上の敵意を、うちに感じるというか。もっと引っかかるのは、なのに、おまえのフォロワーだったりすることだ」
「俺のなに?」
神前が怪訝に問えば、紀藤はため息をつく。
「おまえ、二年くらい更新してないまま削除せずにツイぽのアカウント放置してるだろ。まだ千人以上フォロワーが残ってるぞ。たまには何か書き込め」
「い、や、だ。チームメイトの炎上見て、こわくなった。──そうか。パソコン使えなくなったから削除もしてないままだ」
紀藤は、うちの選手はネットでの発信に無関心すぎるとか、せっかくの江野のブログも内容がくそつまらないだとか、ひととおり文句を並べながら冷蔵庫を漁っている。
「あー。分かった、紀藤。これがホントに女子高生だとしたら、カン愛の新刊持ってる子を見かけて、お仲間だーって本屋でおもったときの子かも」
神前がタブレットの液晶を指さしながら声を上げると、紀藤が何か応じるより先に、おぼんに空いたグラスを回収していた彩音が、ぽんと手を打った。
「そうだ! カン愛でおもいついた。カンちゃん、せっかくの特技を生かして、カン愛ファンにアピールしてみない? もしかしたら、うまいこと拾い上げてもらえるかもよ」
「おい。そいつはうちのいちばん濃いサポーターたちの愛ってやつを一身に背負ってんだからな。おかしなことさせるなよ」
知らんふりで手まねきする彩音に、神前はテーブル越しの耳打ちを受けるべく身を乗り出したのだった。