セット売り
「えー。じゃあさらによけいに金がいるってことだろ。どーすんの?」
紀藤が、肩をすくめてみせた。
「グラニが違約金を設定してるとすれば、フロントはそのくらいはなから計算に入れてるとおもうけどな。何なら、違約金を捻出するために協力しろとでも言ってみるか?」
「……チームメイト、大切なんでしょう? よもや脅すような真似はしませんよね?」
江野に冷やかな視線を向けられ、神前はぶんぶんとうなずく。
「しない。しない! しないよ、もちろん」
「そうだな。脅しやしねーけど。でも、江野。確認するが、選手の利益にもなって、本人が自主的に協力するっていうなら、べつに協力してもらっていいんだよな?」
江野だけでなく、神前もあぜんとした。
「協力してもらえる手でもあるの?」
「言っときますけど。チームメイトを騙して協力させるなんて、言語道断ですからね!」
「脅すのも騙すのも一種の犯罪だろ。そんな真似せず、正々堂々、交渉するさ。まあもし羽角に断わられたとしても、逢坂が積極的にアピールすれば図式としては成立するんだし、それはそれでアリだよな?」
そうね、と彩音がうなずく。
神前は、きょとんとふたりを見た。
「何で、逢坂の名前が出てくんの?」
「──だから、イケメンとセット売りだって言ってんだろうが。サッカー上手くて、イケメンで、若い、とこれだけ高水準で揃ってて、本人が犯罪以外なら何でもやるって言ってんだ。当然、有効活用するに決まってんだろ」
「えーっ。ちょ、逢坂! そんなところで、ネジとか回してる場合じゃないからっ」
呼ばれてふり返った逢坂が、ちょっと小首をかしげて笑う。
「すみません。全然聞いてませんでした。でも、やれと言うことは、何でもやりますよ」
「すばらしい。ただ、逢坂くんは良くても、コイビトに怒られちゃったりするかもよ?」
「そう呼べるような相手が居ないから、何でもやるって言えるんですよ。ね、直さん?」
「えっ、う、うん、そうだね……っていうか、そうなの?」
「それで。コンポの方は直りそうか?」
紀藤が訊くと、スピーカーが片方だけ鳴らない原因とおもわれる部品がどれで、取り替えが必要な旨を、逢坂は厚さ五ミリほどの基板を垂直に持ちあげて説明した。
「そうか。とにかく、直りそうなら任せる」
「話は以上ですか。羽角の件はともかくとして。明日の練習後に全体ミーティングをやるってことで、みんなにメールしますよ。それでいいんですよね?」
肯定をもらうなり、それじゃあと床から立ち上がった江野の腕を引っぱり、紀藤は入れ替わりにソファに座らせようとする。
「ソッコーで帰ろうとするなって。夕飯作るから食って行けよ、おまえも」
「夕飯って、こんな大人数じゃご迷惑──」
「五人分も六人分も大して変わりゃしねーよ。大体、おまえが食わなきゃ意味がない」
「え……あ、あなたが作るんですか?」
「俺は、これでもアスリートフードマイスターの資格とか持ってるんだぜ。──何で、こいつからのおわびに、俺が料理を作るのかは謎だが。神前たってのリクエストなんだ。おまえに俺のおいしーい手料理を食わせてやりたいんだと」
神前に聞こえないよう、紀藤はこっそり江野の耳に笑みを含んだ囁きを吹き込んだ。
「……自分で言いますか」
「もちろん、家に帰ればかわいいカノジョが手料理を作って待ってくれてる、とか言うなら、無理には引き止めねーけどよ」
「…………いただいて帰ります」
にやにや笑ってキッチンに行きかけた紀藤が、ふと足を止めてふり返った。




