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作戦名はKFJ!  作者: 十七夜
第23節 (H)
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パボ・レアルの例

橘の元チームメイトとやらの写真を確認してから、神前は紀藤をふり返る。


「えと。つまり、パボ・レアルの選手はアイドル路線でファンを集めてるってこと?」

「……アイドル路線、と取るか。まあ、女性からの憧れを意識していることは、たしかだろうな。彩音いわく、この憧れってやつがブランド力なんだと」


神前はローテーブルの向こうに膝をついた彩音に視線を移した。


「そっ。目に見えるものに、いかに目に見えない付加価値をつけて憧れを抱かせるかが、ブランド力だとおもうの。自分が満足できるものとか、他人が羨むものでないと、ぜいたくに属するお金ってなかなか出さないものでしょ? サッカーの試合って、テレビならただで見れるし、外国のサッカーだってずっと安い出費でいくらでも見れちゃう時代じゃない。それを考えると、お金を払って観戦に行きたいっておもわせるのは、何らかの憧れの存在にならない限りは難しいのかなって」

「佐賀の例は、うまくやればスタジアムにファンを呼び、結果、チームの成績もアップするっていう好循環を示しているとも言える」


紀藤は一度ことばを切ると、テーブルの上の雑誌をとん、と指先で打つ。


「全国的に無名でも、こういうところで女性ファンの目に留まっているから、佐賀の選手はアウェーでどこに行っても応援してもらえるんだ。そして、そういう効果を知っているからか、SNSなんかを見るかぎり、やつらのファンサービスは王子様対応、と言われるくらい評判がいい」

「お、王子様対応……?」


どんなだ、とおもった神前の心の声が聞こえたように、紀藤が苦笑を浮かべた。


「練見に友だちと行けば、その友だちももれなくファンになるらしいぜ。っても、べつに特別なことをしてるわけじゃないらしい。気さくで、笑顔で、丁寧で、なおかつ、ぱっと見がそれなりにかっこいいってだけだな。俺に言わせれば、逢坂のファンサの方がよっぽど丁寧だろってかんじだが。おまえだって死ぬほど気さくだし、見事に呼び止めたチャレンジャーには江野も誠意が目に見えるような対応をするしな。何が足りないかって言えば、まあ、見てくれ、なのかな」

「えー。逢坂は、パボ・レアルの選手なんかよりイケてるだろ。ね、彩ちゃん?」


ソファから身を乗りだした神前のことを、ふっ、と彩音が笑う。


「カンちゃんの逢坂くん推しは知ってるけど。私は、誠くん推しなのよ。いくらダイヤでも、デザインがイケてないんじゃ魅力も半減するってものでしょ。分かる?」

「…………分かりません」


神前は、聞こえているのかいないのか、こちらにペイントプリントが施されたTシャツの背を向けたままの逢坂を見て、首をかしげた。

神前から見れば、ごくふつうのTシャツ姿で、とくにおかしいところはない。

肩にとどく長髪だって、イタリア辺りで活躍するストライカーのようで逢坂にはなかなか似合っている、とおもう。


「選手が常日頃、自分を磨いてることは知ってるわよ。でも、自分をどう見せるかにはてんで無頓着っていうか。その辺、いつでも気配りが見えるのって誠くんくらいなのよね、鷹の選手って。プロ選手って人気商売でしょう? 女の子にチョイスされたいのならまず、ダサイのはダメだわ。見かけに手を抜いてる商品ばかり並べてるお店に、お客さんが来るとおもう? スタジアムに女の子を呼ぶのだって同じ原理よ」


神前は、得意気、とは正反対の顔をしている江野をとっくりと眺めた。

ユニフォーム姿だとそれなりに迫力のある長身がすっきりとして見えるのは、袖口を軽く折っただけの長袖効果かもしれないとおもう。

おしゃれかどうかはともかくとして、地味で、控えめで、誠実で、細かな気づかいのできる江野の性格を服に仕立てて着せたようだ、とも神前はおもった。

少なくとも、神前みたく着易さで選んでいるわけではなさそうだ。



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