緊急会議☆
茘枝@九犬十愛 @redlitchi99 7月07日
カン愛25巻ゲット。
本屋ですれちがった兄ちゃんがどっかで見た顔な気がしてガン見してたらなんか微笑まれたし!!
茘枝@九犬十愛 @redlitchi99 7月07日
さっきの人、がんばって思い出したら、鷹の選手だったというオチ。
七夕に鷹にときめくとか、何の陰謀?
「粉飾決算──!?」
がらんとした食堂に、尻上がりの声がひびきわたる。
テーブルを叩いて立ち上がった彼に、側にいた誰もが人差し指を口に当ててみせた。
あ、と低く洩らした彼は、そそくさと座りなおす。
「マコ。その反応はずばり、意味が分かってんだ?」
頬杖をついたまま神前直澄がおどろきの目を向けると、後輩である江野誠はさも不満そうに視線をそらした。
「分かって、ますよ。会社の経営者が赤字を誤魔化す犯罪、とかそういうやつでしょ」
「そういうやつだっけ、紀藤?」
神前の視線を受けた親友、紀藤悠一がメガネの縁を押し上げて手元のタブレット型端末の画面をのぞき込んだ。
「大体な。粉飾決算とは──、不正に会計を操作することで、収支を偽装した虚偽の決算報告のこと。取引先・株主・銀行などのステークホルダーからの信頼関係の保全を目的とする場合が多い。手法としては、損害を隠して経営状況を実際よりも良く見せる、利益を余分に計上して赤字を少なくみせる、このどちらか。逆粉飾、の説明はいいな。刑罰についても、省略」
「いや。むしろそっちの方が大事だろう。経営者が逮捕されたり会社が潰れたりしたらどうなるんだ、俺たち選手は!?」
声を荒らげて食ってかかる江野の左肩を、となりで神前が押し止めた。
「だから、声がでかいって」
「そうそう、スポンサー様がやらかしてくれたぐらいで、俺たちがどうなるもこうなるもないっての。落ちつけ」
椅子の背にふんぞり返って腕を組んだ紀藤が、にやりと笑う。
一拍おいて意味を理解した江野の眉間に、みごとな縦じわが刻まれた。
「スポンサー、だと?」
「そうだぜ。べつに、うちの運営会社の話だなんて言ってないだろ。つーか、もしうちだったら今ごろ全国的にマスコミ沙汰だろう。人気がなくても2部チームでもワールドカップ中でも、不祥事だけはどーんと取り上げてもらえるはずだからな」
「……そうですよね。うちのあの、真っ正面から健全経営を合言葉にさんざん強権ふるってきた鬼社長が、裏でこそこそ赤字を隠してるわけがない、というか。あったらもちろん、クビ切って縁も切って網走あたりに一生行ってて欲しいですよね?」
どこぞのナレーターのようなとびきり美声の持ち主である逢坂大和が、チーム一のイケメンと称される顔でにっこりと微笑む。
目の前に座った神前は、さすがに同意しかねて苦笑を返すしかない。
カタン、と音を立てて江野が席を立った。
「帰る。急用だって言うから、何かとおもえば」
「帰るなよ。今日、練習これからだぜ」
「ちょ、待って、マコ。ちゃんと大事な話なんだって。な、紀藤?」
神前はあわてて江野のシャツの袖を引っつかむ。
外は三十度を越えるというのに、なぜか江野は未だに長袖を着ていた。
暑くないのか、と問えばべつに、と返されるだけなのでもう訊こうともおもわないが、神前は今日だけでも三回は心のなかで問いを投げている。
引き止められた江野は、立ったまま紀藤を見下ろした。
「だいたい、毎回、何であんたが会議にしれっと混ざってるんだ」
「おまえこそ、年上に向かってしれっとタメグチきくなよ。これだから、ユース育ちは」
「それを言うなら、プロ入りが早い俺の方が、一応先輩ってことになるんじゃないのか」
「おまえたちはどっちも加入三年目の同期! それでいいだろ」
神前の仲裁に、ふたりは黙った。
江野の方は、期限付き移籍から復帰の再加入、が正しいが、新加入選手の記者会見をともに受けたことは事実だ。
「それをいうなら、俺も一応三年目で同期、なんですけどね」
逢坂がおだやかな笑みを浮かべて指摘する。
紀藤は大卒のため、逢坂とは四つ違いだ。
もの言いたげな紀藤の顔を見た江野は、言われる前に口を開いた。
「……毎回、何で、あなたが会議にしれっと混ざっているんですか」
言い直された問いに、それまでいわゆるお誕生日席で黙りこくっていたチーム最年長の橘大典が、ぷっと吹き出した。
「というか。このメンツから紀藤が抜けて、誰が会議を仕切るんだ?」
紀藤以外の四人がそれぞれの顔を見比べる。
会議とは、一応は選手代表者会議という名がつけられており、サッカープロリーグ2部のクラブチームであるここ福岡ファルケンに所属する選手三十一名の代表者らが、よりよいプレー環境を求めて話し合いを行う、という趣旨のものだ。
選手会長の神前と、副会長の橘、逢坂、そしてチーム主将の江野が正式メンバーのはずなのだが、そこに紀藤を連れ込んだのは神前の仕業だと分かりきっているので、これまでとくに誰も突っ込まずにきたのだった。
言うなれば、紀藤は会長代行であり、どうして彼がこの場に必要かといえば、まさに橘の指摘がすべてだろう。