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「……」
「何?まだやんの?」
(…杞憂だったな)
素人目で見ても勝敗は明らか、老人はせめてもの年配の配慮だったのか相手に黒を持たせてやったつもりだろうが、それすらもいらないお世話だったかも知れない。
盤には同じ程度の白と黒の石が置かれていた。いや、取石を考えたら黒の方がその数は少ないはずだ。
だが、盤上を埋め尽くしているのは黒模様。特に四隅は競り勝った跡がはっきりと残っている。
囲碁はテレビ番組の合間にほんの少し見たことがある程度でその内容まではよくわからない。
順番に打って、陣地を取り合う。そんな程度の知識しかないが、最近は漫画やアニメでも時折見かけるから、それなりに需要はあるのだろう。
(それを趣味にしているなんてことは…ねぇよな)
おそらく俺に毛が生えた同程度の戯れ程度の経験でしかないと思っていたが、それを補って余りある数手先を読む力は自力とでも言うべきなんだろう。
時々石が入っている器をとんとんと叩きながらマス目を数えているのを見ると、自分がどの程度陣地をとっているのかも数えられるのだろう。
「…負けました」
老人が心底悔しそうにそう告げる言葉に、生意気な視線が盤上を見つめた。
「ありがとうございました」
「んで?あんた何やんの?」
途中から黙ってオレの様子を見ていたみたいだけど、特に何も言ってくることはなかった。
(当たり前と言えば当たり前か)
ちょっとかじった位だけどルールだって知っているし、囲碁の先生からは結構筋がいいなんて言われたこともある。
先を読む力はすごいし、計算も正確だから強くなるなんて、結構な落とし文句を言われたっけ。
独創性はないとしっかりオチまでつけられてからは行ってないけど、今度落ち着いたら覗いてみようかな。
「…投扇で」
「御意」
投扇
的を中心に左右一間(畳一帖分)の距離(花方・雪方)にわかれて座し、中央に審判(司扇人)が座り、一礼した後花方より専攻一投したその結果を司扇人が落ちた形によって点数を決める。
それを左右交互に投じ、五投した後場所を交代し、再度同様のゲームを繰り返す。
計十投にて点数を競うもので、現在も芸子のたしなみの1つとしてその遊戯は残されている。
(確かそんな内容だった…)
と、考えてまさかこいつお座敷遊びとかやったことあるクチじゃないよなと疑問が沸く。
他に出来そうなものは名前からして弓を使う小弓あたりかなと思っていたけど、まさかそっちを選ぶなんて意外だった。
つらつらと考えている内に僧侶の恰好をしたじいさんとあいつが枕と言われている上の的を乗せる台を挟んで対峙し、互いに一礼している。
「では花方から」
そう言われてじいさんが扇を構えて目の前の的を狙う。
ふっと風に乗って着地した形は上に載っている的の下に扇が台に立てかけられるような格好で落ちている。
「有明 一点」
(あれでも点数になるのか…)
どんな審査基準でどの形が何点になるのかわからないけど、どうやらあの的に当たらなくても形によっては点数になるようだ。
その後も的に当たったり当たらなかったりを繰り返し、いよいよあいつの番になる。
点数的には十分追い付ける範囲にあったし、NPCが手を抜いているのかそれともある程度の猶予があるように設定されているのか知らないけど、それ程難易度はないのかもしれない。
(…もう少し手加減すればよかった)
大人気なく囲碁勝負では中押し(互いに打ち終わり、自分達の陣地をわかりやすく整地する前に大差で勝つこと)勝ちして調子に乗っている自分がちょっとだけ恥ずかしくなる。
「高飛 無点」
「山颪 過料三点」