⑤
掛け声にも反応しないままでいると、それを見ていたディーラーがすっと肩の力を抜き、しばらくして止まった球のナンバーを読み上げる。
「00(ダブルゼロ)です」
その声に一様が苦笑いを浮かべるが、おおよその見当はついていた。
(…狙ってきたか)
これも予想通りだったが、相手は結構勝負強く、プライドが高い方なのかもしれない。
(となれば)
「追加だ。500万K、コインは換金出来る一番でかいのでいい」
今度はわざと聞こえるように大きく宣言すれば、再び起こる嘲笑とどよめき。
ノイズのような音には耳を貸さず、ちらりとディーラーに視線を送れば、緩んだはずの肩には再び緊張が集まり出している。
「では次、参ります」
球がリリースされ、過去2回と同じようにベルが鳴らされる。周りは俺が今度は動くのか、それとも次こそ手を出すのかを気にしていたが、俺は先ほどと同じように卓を見つめ続ける。
(へぇ……さすがプロ…)
という“設定”にしてあるだけはある。
「そろそろ締切になります」
今度はすっと手が動き、ある数字を中心に、今度はコインはばらけることなく1か所に集まる。それを見た他のプレイヤーは肩をすくめて再度嘲笑と冷笑を送ったが、ある1人だけはそれとは全く別の意味を持つ笑みを俺に向けるしか出来ないでいた。
(やっぱりな。このディーラー投げ分けが出来る設定だ)
ころりと球がルーレットの中に落ちる。数枚しか置かれていないが、1枚の重みがその卓のどのコインよりも重みがある、2枚のコインが置かれたその数字をコールするディーラーは、声が震えなかっただけプロだったと言ってもいいだろう。
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「アイテムと交換しますか?」
「ああ、『合流』のアイテムカードをこれで」
青年が1番最初に換金したディーラーにコインを渡せば、今度は目を細めて笑みを浮かべて対応する。
「おめでとうございます」
おざなりの言葉とともに1枚のカードが差し出され、それに青年の手が触れるとすうっとパスの中に消えて行った。
「残りはどうされますか?」
持っていても意味はない。このままコインをコインのまましておく理由もなければ、それ以上遊んでいる気分でもない。
そう判断し短く「全てK(元)に戻してくれ」と伝えると、ディーラーは手慣れた手つきで操作をする。手元にゲーム内通貨が入ったことを確認すると、青年は興味を失ったかのように背を向ける。
「あ、そうそう。そう言えばいいアイテムが…」
ディーラーが全てを言い終わる前に相手はさっさとその場から立ち去ってしまったが、ディーラーには誰かが見えているのだろうか。言葉の続きを誰もいない空間に向かって言う。
「あるんですよ。『宇宙電話』。珍しいアイテムだと思いませんか?これがあればなんと、通話不可なエリアにいるフレンドとも強制的に通話が可能なんですよ?…あなたにはこれがこれから必要なんじゃないんですかね?」
いつの間にかディーラーの頭には見たこともないマスクが付けられていた。
それはあたかも悪魔のような、角を持つ羊のような風貌をしたものだったのを確認したのは、誰もいない。




