④
- viewpoint change -
(あいつ…やる気だな)
換金場所である程度まとまったコインを交換する姿を見て、これから行く場所を想像する。
(まぁ…あいつならブラックジャックだろうな)
カウンティングをすれば必ず勝てるだろうし、斗真の計算能力なら不可能と言い切れない辺りが恐ろしい。
(暇つぶしのつもりだったが…)
ちらりと換算表を見ればレートはあまりよくないが、今日が沈没船の最終日であるせいもあるのか、交換出来るアイテムのラインナップは初日、2日目に比べられない程充実している。
その中の1つに目が留まるが、さすがと言うべきか換金に必要なコインの数はそれなりの量を要求している。
(…が、それは欲しいな)
アイテムコード『合流』。相手を呼び寄せる『召集』も欲しいところだが、それは生憎交換出来るアイテムにはない。
「いらっしゃいませ、お客様。換金なさいますか?」
長身のディーラー姿の男が営業スマイルのつもりか、人好きのする笑顔を向けてくる。その奥には興味心のようなものが見えたが、こっちとしては単純に遊ぶために換金するわけでもないでもない。
(…てっとり早く行くか)
「200万kをコインに」
「かしこまりました。おいくらのコインを何枚ご用意しましょうか?」
元手が多い程かけられるコインの種類も選ぶことが出来る。ここにあるのは奥にあるVIP専用の高額ベッドの卓を除けば、だいたいが1枚1万のコインが高額になるが、販売自体の制限はないようで100万、50万も販売対象になっているようだ。
「100万を2枚」
「……」
考えることなくそう言えば、目の前のディーラーが目を丸くしている。当然と言えば当然かもしれない。
それだけ多くの金を所持しているようにはどうやっても見えないだろうし、勝つ見込みがあるのかもわからないカジノという場所で、金の使い方を知らないようなヤツがやるような買い方をしているのだから。
「…こちらに。ぜひ希望を掴んでくださいね」
「…」
重みのあるコインを差し出し、男が不敵に笑う。その笑みが馬鹿にしているようにも見えたが、確かに馬鹿にされるような買い方をしている自覚もあるため、黙ってそれを受け取る。
室内を見ながら『どちら』にかけるかを考える。
まず見たのは自動的に止まるものではなく、3つのボタンを押して絵柄を止めるタイプのスロット。
「……」
いくつかの台にはそれぞれ人がコインからさらに換金した小さなコインを使っているが、それを後ろを素通りしながら1台1台を確認する。
(…ダメだな)
押した後しばらく反応までに時間がかかっている。おそらくそう調節しているんだろうが、昔のルーレットではもっと調節が荒く、しばらくタイミングを見ていれば見切れるが、ここで使われているのは時代背景とは異なる最新式のものだろう。
(……こっちは大丈夫のようだな)
もう1つのお目当ての台を見れば、そちらは昔と変わらず手で回すタイプのもの。
「おい」
「はい」
「これを10枚に分けてくれ」
「かしこまりました」
近くにいたディーラーに声をかけ、100万の内1枚をさらに細かいコインに換金すると、卓に座る。
すでに卓では回り始めていたルーレットに、ディーラーが球を投げると、ベルの音が鳴らされる。
それを聞いて卓に座っていた他のプレイヤーがおもむろにかけていくが、しばらく球の軌道を見た後、「そろそろ締切になります」というディーラーの掛け声で、ある数字を中心に5枚ずつを2か所並べる。
「RED14」
(なるほどな)
さっと場の卓のコインが専用の棒によってかき集められる。そこに呑まれていったコインには見向きもせず、近くを通ったディーラーに再度声をかける。
「追加だ。100万K」
「かしこまりました」
あまり大きな声で注文したつもりはないが、それでも周りには聞こえたのかどよめきが聞こえる。
(うるせぇな…)
どうせこれ位の金を持ってお前達はこの船に乗船してきたんだろう。と喉まででかかったが、ただのNPCに文句を言っても仕方がない。
「東洋の青年はずいぶんと今夜は気分がいいようですね」
ディーラーがふざけて皮肉を言い、それに嘲笑に近い笑いが起こる。
「それでは次、参ります」
球がリリースされ、同じようにベルが鳴らされる。周りは俺が大見得を切って換金したコインの行方を気にしていたが、俺はそのまま動くことなく卓を見つめ続ける。
「そろそろ締切になります」




