②
(お願いします!)
そろそろとカードをめくると、めくった先に牙をむき出しにした狼のマークが見える。
(じっ!?)
思わず声が出そうになって慌てて口元を抑える。怪しまれないようこっそり周りを見回すと、ちょうどみんなもカードを見ていたからか、私の怪しい動きは見られていなかった。それがわかりちょっとだけほっとする。
(どうしよう……)
よりにもよって人をだます“人狼”になるなんて・・・。
村人になって特に何もせずみんなの話を聞いていたかったのに、早くも冷や汗が止まらない。
ふっと明かりが消され、どこからともなく犬か狼の鳴き声が聞こえる。GM役の綺麗な女性は相変わらず抑揚のない口調で夜が来たことを告げる。
『それでは人狼のみなさま、目を開けてください』
暗闇の中でぼんやりと目の前が光り、目を開くとそこには嬉しそうな顔をしている女性と、同じように“人狼”の役になっただろう人の姿が照らされている。
(あ……)
そうだ、今回は人狼が私と“あの人”なんだ。そう相手も私を認識してくれたのか軽くうなずかれる。
『それでは誰を処刑するか決めてください』
“あの人”が1人の人物を指す。それにこくりとうなずく。
確かにこの騙し合いのゲームの中でその人が生きていたら危ないのは普段から考えが全然読めないことをよく知っているから納得出来る。
私情を挟んでいいのかわからないけど、私もその人かもう1人、鋭い洞察力を持っているのを知っているあの人かなと思っていたから反対する理由はない。
『初心者がいるようだからヒントをあげるわ。“人狼側”のプレイヤーは2人以上いるわ。それと役はそれぞれ1人。騎士は……確かいたと思ったけど』
さっきGMが言う限りは人狼が2人以上、多重人格者は人狼側に入るみたいだけどいるかどうかわからない。同様に村人を私達から守る役の騎士もいるかどうかわからないといったヒントだったけど、初日の話合いをする限りでははっきりとした役はわからなかった。
(この人はどうなんでしょうか?)
手でその人を指すと、“あの人”が手で『次で』と合図してくれる。
やっぱりこの人も危険だと言うのはわかっているみたいだ。
「恐ろしい夜が明け、朝がやってきました」
自分が食べちゃう側なのにやたらと緊張する。
別に死ぬとかそういうのではないけれども、ゲームとはいえ心理戦は苦手で、こういう話の展開は心臓に悪い。
「今回の犠牲者は 國鷹 でした。さらに今回の犠牲により人狼と疑わしき容疑者が浮上しました。それは……」
(よかった……)
こっそりほっとしている隣で國鷹さんが頬を膨らませながら「えー!」と言っている。
(本当にごめんなさい)
だってこのまま國鷹さんがいたら結局役がよくわからないまま場が混乱しそうな気がしたから。とは口が裂けても言えない。
多重人格者だとして、うまく場を誤魔化してくれるとしても、その陽動作戦に乗っていける自信もなかった。
容疑者として浮上したのは國鷹さんをかばうような発言をしていた虎さんだった。
当たり前と言えば当たり前だけど、こんなときやっぱり2人は仲がいいんだなとこの場に似合わない言葉が出そうになる。
「とりあえず昨日の昼の段階でメアリーが処刑になっていたけど、誰か霊媒師を名乗り出る者はいないか?」
リヒャルトさんが穏やかながらもはっきりとした口調でみんなを見回す。
霊媒師は確か昨日処刑になった人が村人か人狼かわかるという役柄だったと思ったけど・・・。
「「俺だ」」




