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素敵にウィッシュボーン  作者: CoconaKid
第四章 青い空に続け
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 私以外は皆楽しそうにしている。

 無理に連れて来てもらっていると思えば、その輪を乱したくないし、控えめに一歩さがって自分はここに居ないように努めていた。

 それもまた惨めな一時だが、悲しいことに私が肩身の狭い思いをしてようがしてまいが、マシューは全くお構い無しだった。

 ある程度は我慢して付き合ったし、ここに居ても居なくてもその存在は無に等しいが、それがまた迷惑なのではと思うようになってきて、私も自分を追い込んで行く。

 実際、こんな状況の中だと冷静になれなくて、ここに勝手に来た自分を責めてみたり、自業自得と思い込んだりと苦しくなってきた。

 目の前でマシューは魔女達に抱きつかれてヘラヘラしているそんな姿を見てまでも、私は自分の非を感じてしまう。

 もちろん腹立つ感情も持ち合わせていたが、私はマシューにとって友達の立場と思えば、どうすることもできなかった。

 だからといって、いつまでもここに存在なく居ても仕方がないので、私はマシューにそっと囁いた。

「(私、帰るね。このあたりだったらバスに乗れるから、マシューはそのまま気にせずゆっくりしてね)」

 できるだけ気を遣って軽く笑みも忘れなかったが、胸の奥でザラザラしたものを感じてそれを隠すのに必死だった。

「(どうしたの、キョウコ。ごめん、なんか退屈だった。ちゃんと送って行くから)」

 マシューは柔らかな声で温和に言うが、私がそんな思いでいた事を初めて知ったように驚いていた。

 あれだけ放っておかれたら、少しくらいは私の事も心配して欲しかったが、そんなことすら頭に浮かばないほど、マシューは鼻の下を伸ばして一人楽しんでいたようだった。

 私が帰るといったことで、楽しい雰囲気を多少は壊してしまったのか、三人の魔女はチラチラと私を見ながら、マシューと話していた。

 ケバイ女性がマシューの顔を見つめて、はにかんだ笑顔で何かを言っていた。

 マシューは何度も首を縦に振って頷いているところを見ると、何かの約束をしているようだった。

 私を一度チラリと見たので、とりあえずは社交辞令的に笑顔で手を振って「お会いできて光栄でした」と挨拶しておいた。

 相手も笑っていたけど、私に対してはそれなりに普通の対応だったので、やっぱり私は別に彼女の敵ではなそうだった。

 あまり喋らなかったけど、そんなに悪い人でもないのだろう。

 私も魔女達に対しては何も嫌な感情は持っていない。

 ただ化粧がケバイというのと、色気タップリに胸元を少し開けて谷間を強調しているところが、露骨に誘っているなとは思った。

 私より背は低いのに、胸は私の三倍はあったように思う。

 そりゃ、マシューも化粧のケバサよりもあの胸に目がいくだろう。

 女の私ですらしっかり見てしまうほどだった。

 ケバイ女性はマシューを見つめて「(早く戻ってね)」などと色目を使って色気を出している。

 先ほどマシューがうんうんと頷いていたのは、私を送ってからまたここに戻ってくる約束をしていたということだった。

 嫌なものを返して、あとは自分達で楽しむ。

 そりゃ、私が帰ったらすっきりするはずだわ。

 ケバイ女性は私にとったら、それは全然魅力的でも美しくもないけど、マシューに対して愛想良く笑っている。

 それに対してマシューは隠しもせずに照れているからびっくりだった。

 男って、こんな化粧のケバイい女性に色目使われると弱いものなのだろうか。

 それともあの胸が魅力的で、化粧のケバサなど問題ないのだろうか。

 いや、あれがアメリカの普通のレベルの化粧なのかもしれない。

 私の範囲で考えるから理解できないだけであって、アメリカの常識を私が知らなさ過ぎただけだった。

 あのケバイ女性なら、キスもそれ以上の事もすぐに受け入れることだろう。

 それがマシューにとっての好みなのなら、私は別世界の人間である。

 この日ほど、いろんな意味で幻滅した事がなかった。

 まだアメリカのカルチャーショックというもので、新たな世界を見ただけなのかもしれない。

 でもこれでよかったと思うことにします、七面鳥さん。

 あなたは本当に私のために、アメリカの色々な事を実現してくれました。

 全てを受け入れます。

 なんか涙が出てきそうだけど……。

 マシューが先に歩いて行く。

 その後を私はついて行くが、以前ドキドキしてマシューの後をついていったあの時の気持ちは二度と戻ってこなかった。

 背の高さ、肩幅の大きさ、風になびく金髪を見て、魅力を感じては胸を高鳴らせていた自分はどこへ行ってしまったのだろうか。

 この時の私は、地に足がしっかりとついて、小石を跳ね上げるように闊歩していた。

 またモーターサイクルが目に入った時、もう怖がらずにこれが最後だからと腹を括る。

 再びヘルメットを装着し、マシューの腰辺りを掴みながら私はモーターサイクルに跨った。

 命を守るだけのためにマシューにしがみつく。

 そして動き出したとき、私は彼の背中の後でアカンベーのつもりで思いっきり舌を出した。 

 私が彼に隠れてできる最後の抵抗だった。

 再び無事に戻れたとき、ヘルメットを返して、私はマシューにお礼をいった。

「(マシュー、ありがとう)」

 どういたしましてとお決まりのように返ってきたけど、その時の私の気持ちはすでに固まっていた。

 強くなろう。

 もう過去のことは振り返らないでおこう。

 そう思っているうちに、マシューはモーターサイクルに乗って去っていってしまった。

 その後姿をずっと見ていた。

 なんだかとても悔しくて、惨めで、マシューが見えなくなったところで私は家の中に駆け込んだ。

 階段を走って上り、自分の部屋めがけて飛び込んでベッドの上に倒れこんだ。

 いつまでもいつまでもそうしていた。

 辛さと情けなさが押し寄せては悲しくなっていったけど、この日に体験したことはこの先のために非常に役立ってるのは確かだった。


 マシューが何を考えているのか全くわからないままだったが、私の気持ちは確実に変化していた。

 ある日、マシューからまた電話が掛かってきたときのことだった。

 たまたまルームメイトのジョンがそれを取ってしまった。

 その後、私が受話器を取ったとき、マシューは驚きを隠せない様子で私を責めた。

「(男と住んでるのか)」

 ルームメイトは姉と弟と言ったはずなんだけど、姉妹と勝手に思い込んでいた様子だった。

 そしてはっきりと彼は言い放った。

「(みっともない。いやらしい)」

 そういう類の軽蔑する言葉だった。

「(だけど、マシューには関係ないよ。それにジョンと二人で住んでるわけじゃなく、姉のサンディもいるし、全然問題はないんだけど)」

 私が男と一緒に住んでる事がなぜか許せないそんな態度をマシューは取っていた。

 私はマシューのモノではないし、そこまで責められる意味がわからない。

 トーマスもそうだけど、全く関係ないのに、どうして勝手に物事を決めて私に当てはめるのだろう。

 私が強くそのことについては抗議したので、その後マシューは落ち着いて、自分が取った態度に気がついて謝ってくれたけど、こちらは困惑したままでしこりだけが残った。

 こんな事があっても、マシューから電話がたまにあるのが不思議だった。

 そして宿題があるから手伝って欲しいと、今度はそれを持って私の部屋にやってきた。

 ここに住んでることを馬鹿にしてたくせに、部屋に入るなり、いいところだねって、聞いてて呆れるわ。

 しかもよくここへ来れたもんだ。

 ホストファミリーと違って、遠慮なく私の生活に入ってこられるのが便利なのだろう。

 宿題を手伝うことは別にいいけど、その後、マシューは私のベッドに寝転んで、暫く起きなかった。

 ダダをこねた子供のように、赤ちゃん語を喋るようになんだか気持ち悪く甘えてくる。

 マシューなんかおかしくなってません?

 あの愛をロマンティックに囁いたあなたはどこへいった?

 ふと以前佐藤さんが言っていた言葉を思い出した。

『それは男はチャンスがあったらいつでも寝たいからだよ』

 もしかしてマシューはそのチャンスをまだ待っているのだろうか。

 私だけが落ちなかった女なのかもしれない。

 あのケバ子さんとはあの後どうなんたんですか。

 うまく行きましたか?

 それは私には関係ないので訊くことはなかった。

 私に対しては、どこかで男としての自尊心を傷つけられた事をマシューは覚えているのかもしれない。

 私だって、どれだけ悩んだことか。

 苦しくて、それでもどこかで復元できると思って、嫌われないようにビクビクしながら、そして追いかけてしまっていた。

 前回、三人のケバイ魔女達を見て、マシューのあのデレデレした表情を再び思い出すと、なんだか思い続けてきた自分が惨めで虚しくなってくる。

 もうここらで片をつけるときなのかもしれない。

 このままずるずると一緒に居ても何もいい事はない。

 私のベッドで嬉しそうに横になって、縫いぐるみを抱いているマシューを見ると、顔では笑っていたけども心の中はとても冷ややかに冷め切っていた。

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