表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界と竜の逆ハーもの  作者: 夢山 暮葉
第六章・忌まわしき遺産
46/82

第三十八話・無何有の心を、今

 “異触”によって接触する世界の中には勿論、Nレイヤーが存在しないため魔法のない世界も存在する。しかし中には、Nレイヤーを使わずに魔法のような不可思議な現象を起こす技術を持つ世界も有ったりするから、油断は出来ない。

 勿論そういった技術は、この世界では重宝される物だ。何たって、未知のレイヤーを操る技術だったりもするのだから。しかし、それは同時に、とても危険な技術でもある。もしそれによって作られたモノが暴走したりしてしまったら、竜ですらも対抗出来なくなるかもしれないのだから。

 故に竜族は、“異客”によって齎される異界の技術に対し、恐ろしく慎重な姿勢を見せ続けている。もしそういった技術を、こちらでも再現する事の出来る程の“客”が流れ着いたら、彼らは本気になってそれを隠そうとするのだろう。

 もう二度と、“大惨事”の様な悲劇を起こさない為に。




 “禍神”の追放を見届けた後、唯華たちはへとへとになりながら烏山の館へ帰還した。未だに目覚めない白矢を空き部屋に運んだり、あの泥の腐臭を洗い流す為にシャワーを浴びたり、簡易ながらも夕食を作ったり、帰ってからもかなり忙しかったが。

 今は、色々一段落して、ムゥに手を診て貰っている所だ。右手の怪我は、とりあえず治療して元の輪郭は取り戻した。しかし、パテで塗り固めたようなそれは満足に動かす事も出来ず、また掌の感覚も殆ど失われてしまった。利き手を駄目にしてしまったのは、かなり痛い。


「本当、治療は不得意なのデスよね……あの乾涸びたもやしエルフなら、すぐにでも治せるのデショウが」

「ひ、乾涸びたもやしって……まぁ、焦る事は無いですよ」

「いえ、焦りマスよ! いくら治癒の魔法といっても、時間の経った傷はそれだけ治しにくくなるのデス。アレだけ深い傷だったのデスから、放っておけば一生残るような痕になってしまいマス……!」


 ムゥはそんな事を言いながら、唯華の右手を強く握りつつ、ぶつぶつと辿々しく呪文を唱える。手の甲側は割と感覚が有るが、掌の方は何だか気持ち悪い感じしかしなかった。


「おい……ちゃんと、治せよ……」

「そう怖い顔をなさらないでくだサイな……」

「ユイカ、なおるよね? ダイジョウブ、だよね?」


 傍らに控えるテナが、唯華の手を見ながらかなり低い声を出す。ラシェも、彼女たちの会話等から現状を割と察しているらしく、心配そうに唯華の顔を見上げていた。

 そんな中、暫く治療を受けていると、不意にムゥが詠唱を中断した。そのまま顔を上げ、ふらふらと後ろ歩きで唯華たちから距離を取る。


「あの、どうしました?」

「あ、イエ……ちょっと、ラァサンがここに来るようデス」

「……旧竜、の」


 どういう事、と聞き返すより早く、ムゥの影がその色を濃くしたかと思うと、コールタール状の物体がそこから溢れ出して来た。ラシェが短く悲鳴を上げて、唯華の後ろに隠れる。唯華たちは一度見た事が有るから良いが、やはり初見の者の反応はこうなのだろう。

 めちょめちょと音を立てながら現出したそれは、間もなく人型に固まって妖艶な女性の姿を作り上げた。以前会った時から何ら変わらない姿の、ラァだ。


「……ふむ、壮健そうじゃの、“六つ羽根”よ」

「だから、影から出て来るのは心臓に悪いデスって。小さな子供も居マスのに……」

「ふぅん? そこの“異客”の童女か? うむ……それは確かに悪かったのう、驚かせてすまなんだな」


 ムゥの言葉に、ラァはラシェを一瞥しつつ口角をつり上げ、謝罪の言葉を口にした。そして、目隠しをしているのだから意味は無いだろうに、ぐるりと部屋の中を見渡すように首を回す。


「しかし、何故アナタがこんな所まで」

「色々と聞きたい事もあろうが、妾には時間が無い。手短に用だけ済ませていくぞ。

 して、唯華よ。あの“御柱”──否、もうそれではないのだったな。風上の裔は何処におる?」

「ええと、別室で寝ていますけど……」

「そうか。ならば案内せい、あの者の治療を執り行う」


 そのラァの台詞に、唯華の表情は俄に明るくなった。とりあえず安静にさせているものの、それ以上の処置の仕方は彼女たちには分からなかったからだ。だが、旧竜であるラァならば、適切な処置を知っているだろう。


「分かりました。では、こっちです」


 唯華の服の裾を掴んで震えるラシェをなだめながら、彼女たちはラァを白矢の居る部屋へ案内する。ぞろぞろと廊下を渡って、普段は使われていない部屋の扉を軋ませながら開くと、やはり目を覚ましていない白矢の姿が目に入った。

 皆が見守る中、ラァは白矢の枕元に歩み寄り、その顔に灰褐色の指を触れさせる。暫く神妙な表情で何かを感じ取っていたかと思うと、彼女は布団をひっぺがし全身の触診を始めた。


「アレだけ長らく浸かっていたのに、致命的な侵食は無い、か。“禍神”に呑まれた風上の“御柱”どもも、己の子孫は可愛かった、という事じゃな」


 一通り診終えると、ラァはそんな感想を漏らしつつ、白矢の頭の上に手をかざし、一言二言何か唱えた。その掌から現れた文字のような紋様が、彼の頭に染み込む様にして消える。


「これで、もう暫く待てば、自ずと目を覚ますであろ。唯華よ、シィやその他の心優しい竜達に代わって、妾がそなたを労おう。良くやった、と」

「ええと、ど、どうもです」

「さて、次はそなたの治療じゃ。そなたも“禍神”に触れたのであろ? もしや侵食をされているやもしれぬ」


 そう言うと、彼女は唯華の方へ歩み寄って来て、右手を掴んだ。七分袖を捲り上げられ、ラァの灰色の手で腕全体をまさぐり回される。こそばゆいと思いつつも大人しくなすがままにされていると、掌に触れた所でラァの手が止まった。


「これは……」

「はい、白矢さんに巻き付いていた鎖を外す時に、ちょっと」

「……妾自身が仕掛けた罠とはいえ、随分と惨いのう」


 小声で呟いたかと思うと、ラァは唯華のその掌にふぅっと息を吹きかけた。すると、ビリビリと静電気が走るような感覚と共に、じわじわと手の感覚が復活していく。

 間もなく、唯華の右手は元通りの姿を取り戻した。放された手を握ったり開いたりしながら、問題なく動く事と感覚が戻っている事を確認する。驚きに口を半開きにしながら、彼女はラァの姿を見上げた。


「そなたは名誉の負傷と言い張るのやもしれぬが、利き手がそれでは不便であろう。故に、治しておいたぞ」

「あ……ありがとうございます! その、助かりました」

「うむ。だが向こう一週間くらいは、そちらの手は大事にしろよ。重い物を持ったり、強い力を込めたりはしないことじゃ。

 侵食も至極軽微であったようじゃし、心配は必要あるまい。今回は出血大サービスじゃ、契約も代償も求めぬよ」


 そこまで言うと、ラァは重心の足を変えつつ一息吐いた。同時に、彼女自身の影の色が少し濃くなる。


「さて、妾はこれから事後処理に向かわねばならぬ。ま、そなたらや風上の裔に類が及ばぬ様、精々努力するからの。では、またどこかでな」


 ニヤリ笑いを浮かべながら彼女が手を振ると、その姿は再び黒い粘性の液体となって、影の中へ消え入ってしまった。

 去り際の台詞に、唯華は少し考える。詳しくは分からないが、アレだけの大事だ、多くの犠牲者が出た筈だ。もし“禍神”の事が世間に知られたら、白矢が社会的に殺される可能性も有る。そうなってしまったら嫌だな、と彼女は少し眉根を寄せた。

 何故“禍神”が解放されたのかは分からないが、唯華たちが烏山に暮らしている事も少なからず遠因となっている筈だ。その所為で白矢が追い詰められたら、彼女には本当に立つ瀬が無くなってしまう。そんな物思いに耽っていると、不意にムゥに声をかけられた。


「今回の件、パッと見だけでも、犠牲者は百をゆうに超すとか。多くのニンゲンがあの泥に呑み込まれ、そしてそのまま“禍神”もろとも、この世から追放されマシタ」

「そ、そうなのですか……」


 やはり相当な惨事になっていたのか、と唯華はやや表情を曇らせる。同時に、ムゥが起因の分からない笑顔を浮かべていて、少し背筋に寒気が走った。


「もし助ける者が居れば、彼らも助かったデショウねぇ。デスがアナタはそこの白アスパラだけを助けマシタ」

「う、うん、そうですけど」

「……それを、ユイカに言って……どうする」

「確かめておきたいのデスよ。ユイカサンがその事をどう考えるのか」


 テナが、ムゥを詰責するような声を上げた。俄然として、険しい雰囲気が帳となっておりる。その棘からラシェを守る様に軽く腕を広げると、唯華はそのムゥの言葉に泰然として答えた。


「まぁ、犠牲になった人たちは、可哀想だと思いますけど……でも、あの場でわたしに助ける事が出来たのは、精々一人だけだったでしょう。だから、その一人に白矢さんを選びました。

 白矢さんを見捨ててまで見ず知らずの人を助けようだなんて、わたしには出来ませんし。それに、恩や縁の有る人を、そうじゃない人より優先するのは、当然の摂理じゃないですか」


 親しい身内と、そうでない人間のどちらか一人を選べ、と言われたら、多くの者が前者を選ぶだろう。後者を選びたくなるような余程の理由が有るなら、話は別だが。

 全く迷いの無い彼女の答に、ムゥはどこか満足したような笑顔を見せた。


「アナタはそういうニンゲンなのデスね。よく理解いたしマシタ、ありがとうございマス。

 ……さて、もう夜更けデス、そろそろ床に就く準備をした方が良いデスよ」

「あ……そっか、もうそんな時間ですか」


 指摘されて始めて、唯華は自分が既に相当に眠くなっている事に気付いた。一度自覚してしまうと、その眠気は更に増幅されて強烈な睡魔となる。同時に、唯華の服の裾を掴み続けるラシェが、こくりこくりと船を漕いでいるのをみとめ、彼女はテナに声をかけた。


「テナさん、わたしはもう少し白矢さんを見てたいので、ラシェちゃんを適当な部屋まで連れて行ってあげておいてくれますか?」

「……ユイカが、そう言うなら。……早めに、寝ろよ」

「分かってますよ」


 そう頼むと、テナはラシェの身体を持ち上げて、軽く身を屈めながら肩車にして部屋を出て行った。今日はシィの迎えは無さそうなので、今日はお泊まりと言う事になる。

 彼が小さな子供を相手にしているのは、何だか無駄にさまになっている。そんな事を思っていると、どこか難しい表情をしたムゥが頭を掻きながら唯華を見上げて来た。

 

「フム。……ワタシは竜の端くれとして、今回の事態の収拾の応援に向かわねばなりマセン。一応、明日にもここに来れる様努力はしマス」

「あら、竜族も大変なのですね……頑張って来てください」

「程々にやって来マスよ。では」


 ラァも言っていたように、必要以上の混乱が生まれないように、適切な事後処理をする必要が有るのだろう。白矢が社会的な死を迎えない為にも、上手くやってくれると良いな、等と考えていると、ムゥは姿をすうっと薄れさせて消えてしまった。

 すると、辺りが一気に寂寥に包まれる。口元を両手で覆って大きく欠伸をしながら、ちらりと白矢の眠る寝台の方へ目を向ける。心持ち先ほどより穏やかそうな表情で横たわる彼の姿を捉えながら、テナの言う通り自分も寝ようか、と部屋の出入り口の方へ身体を向けた、その時であった。


「う……」


 白矢が、微かなうめき声を上げた。唯華の耳はそれを逃さず捉え、慌てて彼の枕元へ駆け寄る。すると、間もなく彼の白い目蓋がこじ開けられ、そして外界を認識し始めた。


「……ここは」

「烏山の館です。あの、わたしは分かりますか?」

「あ、ああ……ゆっ、錦野唯華、だろ? ……そうだよな?」

「はい、白矢さん。間違いなく、わたしは錦野唯華です」


 声が掠れていたが、意識はハッキリしているようだった。枯れ枝のような身体を布団から引き剥がし、白矢は身を起こす。


「どこか、悪い所は有りませんか? 記憶とか、ちゃんと有りますか?」

「いや、特にねぇ……記憶も、割とハッキリしてる……なんか、変な声が聞こえて来た辺りで途切れてるけどよ」


 彼は眉間に皺を寄せながら、有る限りの記憶を思い返しているようだった。日付や時間を訊かれたので答え、暫くその頭が整理し終えられるのを待っていると、彼は不意に真顔になって唯華の方へ向き直った。


「あ、あのさ……さっきは、すまなかった。いきなり押し倒したりして」


 意を決した様に謝罪する白矢に、唯華は少しきょとんとしてしまった。白矢は耳を力無く項垂れさせながら、歯を食いしばるようにして彼女の返答を待っている。唯華は数度ぱちくりと目を瞬かせた後、頭の中で適切な文章を構成して口を開いた。


「いえ、気にしないでください。それより、わたしも酷い事を言ってしまいましたし……すみませんでした」

「アレで『酷い事』ってんなら、僕の普段の言葉遣いとか、酸鼻極まってるんじゃねーか……?」


 やや呆れた様に眉を歪めながら言う彼は、一度口を閉ざして少しの間瞑した。そして、色素の無い頬をうっすらと紅潮させながら、カッと目を見開いて険しげな声を発する。


「そ、それで、だが。ぼ、僕があんたの事好きなのは、撤回するつもりはねーぞ。いきなり、その、き、キッ、キスしたのは、悪いと思ってるがよ……」

「えあっ、そ、それは」

「で、あんたはどうなんだ。僕の気持ちに応える気は有るのか?」


 真剣な声音と共に向けられる視線は、精錬され研ぎ澄まされた刃のようであった。そんな目を突きつけられ、どこかしどろもどろになりながら、唯華は必死に自身の想いを正確に言い表せる言葉を探す。


「……やっぱり、わたしにはまだ、よく分かりません」

「なっ」

「わたしは確かに白矢さんの事が好きです。ですけど、それは友情なのか、それとも恋情なのか……全然判断がつかなくて。

 なので、それが分かるまでは、もう少し友達のままでいて貰えませんか? いつか必ず、答を出しますので」


 その戸惑いが真実であった。ガラスケースのフィルターを取り払ったとしても、いきなり判別する事なぞ出来るわけが無い。ましてや、唯華は人間相手の恋をした事が無かったのだ、恋愛感情に対する感覚的な知識が圧倒的に不足している。

 何とも優柔不断な彼女の答弁に、白矢はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。そうして耳をやや上に跳ねさせながら、ハッキリとした力強い声を発する。


「ケッ……そ、そういうなら、待っててやる。だが絶対に答は出すんだぞ、約束だからな!」

「ええ、分かりました。約束は違えません」


 ビシリと白い指を突きつける白矢に、唯華は胸を軽く叩いてみせた。すると、彼は手を引っ込めながら、細く揺れる声を吐く。


「それで、なんだが……あんた、僕の家に忘れ物してっただろ。あの肩掛け鞄」

「あ……やっぱり、白矢さんの家に忘れてたのですね」


 唯華はその存在を想起する。やはり、彼の元に忘れて来てしまっていたらしい。あの時は本当に焦ってしまっていたからな、と心の中で苦笑をする。


「おう。だからよ、今度またそれを持って来てやるから……ここに来ても、良いよな?」

「ええ、勿論構いませんよ。寧ろ、大歓迎です。魔法とかについて訊きたい事も有りますしね」


 そう微笑みかけると、白矢は微妙に目を逸らしながら、小声で頷く声を上げた。




 “禍神”追放の“異触”を発生させた場所に集結していた竜たちも、銘々に散りそれぞれの役目を果たしに飛んでいった。臼木にコネクションを持つ竜を中心に、今回の事件の情報を操作したり、公開出来ない事を隠蔽したりするのだ。

 しかし、旧竜“ネームレス”は、誰もいなくなった“異触”の現場に立ち尽くしていた。その白い姿は星明かりに照らし出され、ぼんやりと薄いシルエットを浮かび上がらせている。

 白い泥によって押し潰されてしまった農地は、何とも酷い有様だ。幸いにも収穫は済んでいたようだが、直すのには骨が折れるだろう。それどころか、持ち主が無事かどうかさえ怪しい。

 そんな土の上に、浅く足跡を残しながら彼女は立つ。夜風が吹き渡り、白いワンピースの裾がぱたぱたとはためいた。同時に純白の髪も靡かせながら、“ネームレス”は緋色の両目を少しの間瞑り、何かのスイッチを切り替える様に深呼吸をした後、徐に顔を上げる。


「今回のは予定外だったが……でも、予定より早く『コレ』を手に入れられたし、結果オーライってトコかね」


 彼女は、自分の隣を見上げながら、誰かに親しげに話しかける様に声を上げた。当然、彼女の紅の双眸が見つめる先には誰もおらず、しかし彼女はうんうんと頷きながら見えない誰かからの返答を聞く。


「でも、今回は危なかったぜ……一歩間違えば、この世の終わりだったし……本当、『コレ』には困ったもんだ」


 そう笑いながら、“ネームレス”は片手に握る小さなシャボンを転がす様に弄んだ。掌サイズのそのシャボンの中では、一掬いばかりの白い泥が閉じ込められ、蠢いている。


「くくく、これを今からどっかのデカイ街に放ったら、どうなるんだろうなァ。きっと大混乱だぜ? ラァがてんてこ舞いになる様が思い浮かぶな。

 ……とと、そんな勿体ない事を本当にやるわけないじゃないか。だから、そんな泣きそうな顔しないでくれよ、『マエルラ』」


 彼女が最愛の者を呼ばわる声は、他の者には決して聞かせないような、とてもとても優しく穏やかな声であった。彼女にしか見えない誰かの腕を取るような動作をし、“ネームレス”は愛に満ちた笑みを浮かべる。


「……これで、残るピースは後一つ。それが揃い次第、あたしたちの計画も実行に移せる。予定よりずっと早く出来そうだぜ。

 マエルラの願いは、あたしが代わりに叶えてあげる。マエルラの想いは、あたしが代わりに知らしめてあげる。だから、安心して見ててくれよ」


 頬が裂けんばかりに口角をつり上げ笑うその顔は、およそ正気の者が見せる表情ではなかった。彼女が肩を震わせて笑う度に、胸元を飾る歯車のネックレスが揺れる。

 しゃっくりの様な笑い声を平坦に上げながら、“ネームレス”は転移用のシャボンを呼び寄せ、それの破裂によって生じる空間の歪みに身を投げて、姿を消した。その一連の場面を見ている者は、誰もいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ