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キルドに会った翌々日。俺とヘリオンはギルドの依頼を受けて、リアルク周辺の散歩(・・)をしていた。

いや、正確に言えば周辺にいる魔物の討伐だが、本当に危険な魔物以外は放っておいてもあまり問題はない。そう依頼表に書いてあったからな。確か講義の一環で討伐があったような気がするが、今もやっているのだろうか。

「カナ、ここって昔戦場だったっけ?」

木に登っていたヘリオンが降りてくる。今、俺達はリアルクの東にある林に来ているが、一向に魔物会う気配がない。全て狩り尽くされてる可能性があるな。

「そんな記憶はないぞ?何かいたのか?」

「あー、えっとね・・・フェイリア・ゴーレムが見えたんだけど」

・・・ はぁ?さすがにそれは、性質が悪すぎる冗談だろう。

ヘリオンはへらっと笑うと、自分の後ろを指差した。

「だってさ、首がない作り物の巨人が」

ヘリオンの後ろを見ても、ただ細身の木が見えるだけで遠くまでは見えない。音もない。

「お前が見間違える事は、まずありえないな。行ってみるか」

恐らくフェイリア・ゴーレムだろう。だが、この辺りでの大量殺戮は起きていないはずだ。

「了解!」

調子良くヘリオンは返事をした。

歩き始めてすぐに、木がへし折れる音が聞こえてきた。

「やばっ、起動した!」

ヘリオンが走る。俺も舌打ちをすると、後に続いた。

フェイリア・ゴーレムは、文字通り出来損ないの守衛だ。守るべきものが無い奴らは、手当たり次第に周りを攻撃する。また、時間が経てば経つ程、様々な能力を獲得することは有名な話だ。誰にも知られずに出現していた奴が、村一つ壊滅に追いやる事もある。

現場には、課外授業でもあったのかリアルクの学生が数人いた。どいつもボケッと突っ立っている。

「何をしている!邪魔だ!」

「カナ、反射よろしく!」

ヘリオンは腰のバッグから筒のような物を取り出して俺に見せると、まだ動きの鈍いゴーレムに飛び乗った。

「了解した」

あれは魔術を使わずに爆発を起こせる代物だ。なるほど、一撃で仕留めるつもりだな?

俺はゴーレムの周りに全てを反射させる結界を、相手の足元から構築していく。

首の辺りの窪んだ場所に筒を取り付けたヘリオンは、振り払われた勢いを利用して宙を舞った。

「セット完了!」

結界が閉じた。一拍遅れて地面が微かに揺れる。・・・下にも張るべきだったかもしれない。

「ヘリオン、周りの奴を一人捕まえろ」

閉じ込めた爆風が収まるまで、かなりの時間が必要になるはずだ。また、この場の状況を始めから知っているのは、突っ立ってぼんやりしていた馬鹿だけだ。話しぐらい聞いてもいいだろう。

「隊長、全員確保しました!」

・・・俺は一人だと言ったはずなんだがな。

どこから取り出したのかわからないロープで、学生達が全員後手に縛られていた。ご丁寧に地面に伏せられて足まで括られている。

ふざけているらしく、ヘリオンは左手で敬礼をしていた。

「敬礼は普通、右手だ。ところで、この場にゴーレムを作ろうとした奴はいるのか?」

俺が一番近くに転がっている奴に聞くと、そいつは顔を上げると不満そうな顔をした。

「おい、何でこんな・・・放せよ!」

「残念だが、それは出来ない。お前らは重要参考人だ。戦場でも、大量殺人が起きた場所でもない所で、フェイリア・ゴーレムが生じるのはおかしい。となると、答えは一つだろう?」

リアルクの学生なら誰だって知っているはずだ。フェイリア・ゴーレムが発生する条件ぐらいは。

「知るか!いい加減に・・・」

あぁ、そうか。仮にも魔術師だったか。失念していたな。

「爆ぜ、っ!?」

背に回っている奴の掌の上に火球が生じて、すぐに消えた。

「はい、詠唱封じ。ねぇ、カナ。これじゃあ、俺達が悪者みたいだけど」

小型の投げナイフが奴の目の前に刺さっている。ヘリオンが投げた物だ。

「ゴーレムを作るなどという、馬鹿げた事をするからこうなっているだけだ。学院に知れたら退学ものだぞ?これでも穏便な方だ」

結界の方を向いた俺は、土煙が収まっている事を確認してから結界を解いた。

「そもそも、お前が全員捕まえなければ、こんな面倒な事にはならなかったんだからな?」

あちこちで魔術の気配がする。いっそのこと、魔術師として再起不能にしてやろうか。

「ごめーん。つい手が出ちゃった」

へらへら笑っているヘリオンに舌打ちすると、一人、詠唱をしていない奴に問いかける。

「生命力、あぁ、人間は魔力と呼んでいるのか。もうないんだろう?一体何に使ったんだろうな」

女は怯えた顔で俺を見る。

「返事のいかんによっては、その数年の命を延ばしてやろう。さぁ、どうする?」

「いやだから、カナ?それじゃあ悪者だから・・・あ、コアあった」

ぱたりと、周りで聞こえていた無意味な詠唱が止む。黙ったまま返事を待っていると、しばらくして女が泣き出した。

「ご、ごめんなさい・・・!あたしが、やりました」

そうだ、それでいい。

「事情を聞いてもいいか?」

「見返したかった、あんな、親の七光りになんて、ズルをしてるだけじゃない!あれぐらい私にだって・・・!」

面倒だからここでヒステリーを起こさないでくれ。

見返したかった、か。確かにゴーレムを作り出す事が出来れば、大抵の奴は驚くだろう。だが、リスクが大きすぎる。

「一つ、いい事を教えてやろう。ゴーレムを作成する時は、一人でやる事だ。こんな何を考えているかわからない馬鹿が側にいると、それだけで失敗する。雑念を入れてはならない」

女の縄だけ解いてやった。約束通り、生命力を回復させてやらないとな。

「おい、なんでライラだけなんだよ。俺達も解けよ」

最初に話し掛けた奴が言う。

「馬鹿だな、お前は。自分で外せばいいだろうが」

「あっ」

何もない所から透明な液体の入った小瓶を取り出す。手持ちの水筒に中身を二、三滴垂らして女に手渡した。

「気分が悪くなったら飲むのをやめろ」

バラバラになったコアを集め終わったらしいヘリオンが、慌てた風に戻ってくる。

「なんか、コアが元に戻ってるみたいなんだけど!?」

ヘリオンの手の上で、パキパキと音を立てながらコアの欠片が少しずつ大きくなっている。

「自己修復能力持ちか」

「よかったね。これ、時間が経ったら危険すぎる」

これなら復活しきる前に生命力が切れるだろう。

「あ、あの、ありがとうございます」

水筒が戻ってきた。

「さっきよりは、大分顔色がマシだな」

まだ中身がかなり残っている。なるほど、元々少ない人間だったのか。

「さて、リアルクに戻るぞ。ゴーレムもどきを倒したとなれば、報酬もそれなりに増えるはずだ」

「お金!そうだね、早く帰ろう!」

コアを腰のバッグに入れたヘリオンは、大はしゃぎだ。このところ、慢性的な資金不足で装備がまともに整えられなかったからな。

「転移するからこっちに来い」

「転移!?」

なんだこいつら。一々うるさいぞ。

「出来て悪いか?何がそんなに問題なんだ」

座標は、そこでいい。準備は出来た。

ヘリオンの右腕を掴んだ俺は、一気に式を展開させた。一瞬の空白の後すぐに、視界が切り替わる。

「ひゃー、便利だね!俺にも教えてよ」

リアルクの東門の傍に転移した俺らは、何食わぬ顔で門を潜った。

「教えてもいいが、使えるかどうかは別問題だぞ?」

「だよねー・・・」

ヘリオンはそもそも、魔術の才能がない。陣術も満足に使えないだろうな。

「ギルドに着く前に、左手でコアに触れておけ。念には念を、だ」

街中で復活されたら困る。ないとは思うが、復活には時間がかかるため、他の能力を獲得するかもしれない。

「りょーかい。じゃ、今やっとこ」

地面に引きずりそうな程長い袖を、手がギリギリ見えない位置まで捲る。

「そういえばさ、何でゴーレムの作り方知ってんの?禁術じゃないの?」

「禁術にされたのは、つい最近だろうが。・・・父上に言われて、作った事があるだけだ。俺も、二度程失敗した」

「ふぅん」

何故かニヤニヤしているヘリオン。

「なんだ、言いたい事があるなら言え」

「カナも失敗する時があるんだね」

俺はため息をついた。

「あの時は子供だった上に、何のレクチャーもなかったからな」

周りに聞いて回ったのはいい思い出だ。たまたま地属性がいたからいいものの、最悪父上の部屋に忍び込む予定だった。

「え?教えてもらえなかったの?」

「兄に当たる奴に聞いて、やっと出来るようになった」

あいつは人形作りが得意だったな。小型のゴーレムを大量に使役していたのを覚えている。

「き、厳しー・・・」

左手でバッグの中を漁っていたヘリオンが、呆れたような顔をした。

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