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中編になると思います。

この大陸のほぼ中心に、リアルクという学園都市がある。各国から有志の学生や学者を集め、研究やら授業やら・・・主に魔術の研究が盛んだ。

「うわぁ、すごい!学生さんが一杯!」

・・・とりあえず、ヘリオンは無視しよう。

絶対中立を謳い、戦争中の国の奴だろうが差別される立場の奴だろうが受け入れる事で有名でもある。都市のクセに一国と同じ権限を持っているのも、また。

「カナ、俺先に宿屋さんに行ってくるね。カナはギルドよろしく」

「あー、はいはい。プレート貸せ」

旅商人や俺達のような冒険者も入れるため、ギルドも、宿も、ちゃんとある。なんとまぁ、都合のいい都市だろう。

ヘリオンからプレートをもらった俺は、都市の商業区にあるであろうギルドへ足を向けた。

「えっ・・・あ、す、すみません。確認してきます」

この反応を見るのは久し振りだな。新人か?

ギルド内にある小さな椅子に腰掛けて、二枚のプレート持って奥へ消えた奴が帰ってくるのを待つ。

「お、お待たせしました!Sランクのカナッシュ・アルナさん、ですね。それであの・・・マートルさんは?」

意識をギルドの外に向けると、ヘリオンが走って来ているのを感じた。

「今来る。少し待て」

「カナー!!」

ほら、煩いのが来た・・・。

勢いよくドアが開いて、少し呼吸の乱れたヘリオンが入ってくる。

「ごめん!なんかどこの宿屋さんも一杯で、部屋取るのに時間かかちゃった」

「そうだろうな。どっかの誰かさんが寄り道をして、この都市に入るのが昼になったからな」

「まだ言うの!?」

窓口の奥で困惑している奴を振り返る。

「こいつが、ヘリオン・マートルだ」

「・・・あ、えっと、か、確認しました。プレートをお返しします」

二枚のプレートを受け取り、俺は口をへの字に曲げているへリオンを押してギルドを出た。

「早速、図書館に行ってみるか?あそこは夕方まで開いているはずだぞ」

ギルドからどう歩けば一番近道だったか、久し振りでよく思い出せない。

ヘリオンはへらっと笑うと、俺の前を歩き出した。

「図書館にさ、俺の呪いについてわかる本、あるかな?」

応えてないのか、こいつ。

「なくても、研究していう奴がいる・・・かもしれない。まず無属性をよく知ってる奴じゃないとな、話にならんが」

呪いが闇だと言った瞬間に殺してやる。

「カナ、殺気立ってる」

そんな事を話している内に、図書館の前まで辿り着いた。俺は上着の左の隠しを探る。

「ヘリオン、これをあの頭固そうな奴らに見せろ。きっと通してもらえるぞ」

「あ、わかったー」

かなり年季の入った紙をヘリオンに渡して、俺はのんびりと図書館を眺める。ここに来るのは何年振りだろうか・・・。

「カナー!どうしたの?早く来て!なんかやばいんだけど!」

顔を引き攣らせている衛兵の前で、ヘリオンが俺を呼ぶ。あの許可書じゃなく、ヘリオンのプレートを見せるべきだったか。失敗したな。

遅れてヘリオンの隣に立つ。

「これじゃあ、ダメか?今もこいつは学園長のはずだ」

衛兵は激しく首を横に振る。

「そうではなく、記載されている年の問題で・・・。三十年前の物なんですが」

「そうか?見間違いだろう。ちゃんと見てみろ」

俺が指し示した方を、衛兵が見る。そこには大陸暦1322年と書いてあった。つい二年前の年だ。

「あ、あ、し、失礼しました!どうぞお通り下さい」

紙を返してもらってまた隠しに仕舞う。その様子を、ヘリオンは笑みを消して眺めていた。

入り口を抜けると、ある程度の広さのある庭がある。この更に奥が図書館だ。紙の本が主だが、ちゃんと皮紙の物もある。さすが学問の中枢といったところか。

「ひ、広いね・・・」

声の音量を下げて、ヘリオンが言う。

俺は懐中時計を取り出すと、一度図書館を見渡した。

「あと三時間で閉まるな。明日に亘って調べるから、とりあえず目に留まったのだけ読むぞ」

「了解っ」

確か、魔術関係の本はこっちだったか。少しは本が増えているといいが・・・。

題名だけ見て、選んだ本は五冊。皆、それなりに厚いが、俺ならできる。全部読んでやる。

図書館のほぼ真ん中にある長机の、一番端に座る。

(これは・・・ダメだな。そもそもが違う。次も違う。これもか)

呪いは闇の魔術じゃないんだよ。どうしてわからない。やはり、まだそこまで研究されていないという事なのか?

結局、手元に残ったのは二冊。とりあえず邪魔な本は脇に寄せて、外套も外して自分の影に仕舞う。

「カナ、隣いい?」

返事も聞かず、ヘリオンは隣に座ってきた。持ってきた本は『魔物大全』。やる気あるのか、こいつ。

「で、どう?見つかった?ねぇねぇ」

俺はため息をつくと、ヘリオンを殴って黙らせた。

本を開いて、初めから読み直す。

この本の作者は光の術師らしく、いや、だからこそ呪いが闇の術でない事を知っているようだった。大多数が基礎属性であるこのご時世に、光使いは珍しい。変に誤魔化さず、しっかいと証しているため、風当たりも強いだろう。

(・・・お?リアルクにいるのか)

なんという偶然だ。しかし、微妙な所でもある。光使いとはいえ所詮は人間。あまり過度な期待はしないでおこう。

「あの・・・」

声を掛けられ、本を閉じて振り向くとここの学生らしき女生徒二人がいた。

「なんだ」

「も、もしかしてアルナさんですか?」

何故知っている。そこまで俺は有名か?

「・・・そうだが」

小さな黄色い悲鳴が上がったが、だからどうした。俺に用があるならさっさと言えば良いだろうが。

相手の出方を待って黙っていると、不意に手を握られた。

「私、貴方に一度で良いから会いたいと思っていたんです。お会いできて光栄です!」

「うちもです!こんな所で会えるなんて」

あぁ、なるほど。魔術師なのか。それなら、俺の話ぐらいは聞いててもおかしくないな。・・・それでも、やはりこの反応は――。

俺は相手の手を握り返すと、困ったように笑い返した。

「それはどうも。よくわかったな」

横でヘリオンが唖然としていたが、鬱陶しいから無視だ。

「リアルクにいると、アルナさんみたいな魔術師の話をよく聞きますから」

俺の手配書でも出回っているらしいな。

手を離して肩を竦める。

「・・・ところで、見た所ここの学生みたいだが」

「そうですけど?」

今まで読んでいた本を手にとって二人に見せる。途端に二人の顔が複雑になった。

「この本の著者を知らないか?会って話を聞きたいんだ」

「学園の先生ですけど・・・どうして」

「あぁ、いや、たいした理由はない。この時代に光使いが、それもこんな所にいると知って興味が出ただけだ」

それを聞いて片方が大きく頷いた。

「うち、その先生の授業取ってるんで、もしよかったら案内します!」

よし、手間が省けた。本を読むより、本人に聞いた方が早いだろう。

「すまない。じゃあ、本を片付け終えるまで待っていてくれないか?」

「手伝います!」



・・・あぁ、しまった。ヘリオンを忘れていた。まぁ、あいつがいると話が進まないからな。別にいいか。

「キルド先生、失礼します」

ドアが開かれる。中は研究するにも生活するにも狭く、なのに両脇の壁には本棚が、奥には大量の紙が置かれた机があり、はっきり言ってかなり酷い部屋だった。

この部屋の主は、中央にある小さなソファーの上に寝転がって本を読んでいた。

「うん?トト、どうしたんだい?」

「先生!お客さんですよ?というか、なんで寝転んで本を読んでるんですか」

どう考えても狭いからだろ。いや、寝転がる必要はないか。

「お客さん?」

のんびりと起き上がってこちらを見る。眼鏡をしているようだが、あれじゃあもう意味がないな。

「本当だ。冒険者が、何の用かな?」

「いや、大した用でもないんだが、光の術者が珍しくてな」

「・・・そういう君も闇使いじゃないか。うん、とりあえず入りなよ。トト、明日の課題、ちゃんと出してね?」

思ったよりも早く見破られたか。人を見る目はあるんだな。

「はぁい。じゃ、うちはこれで失礼します」

「ここまで案内してくれて、ありがとうな」

トトと呼ばれた女は照れたように笑うと図書館の方へ歩いていった。

ドアを閉めながら中へ。

「初めまして。僕はキルド・レヴァーン」

「俺はカナッシュ・アルナだ。そこの図書館で、あんたの本を読んだんだ」

キルドは俺にソファーに座るよう勧めると、部屋の隅にある明かりを点けた。

「呪い関係の本は少ないからねぇ、何かの拍子に僕の所まで行き着くよね。僕は祈り子じゃないから解呪までは厳しいけど、真相を突き止めるのに光は役に立つからさ」

「呪いは闇の術じゃないからか?」

「もちろん、それもあるよ」

キルドは机に寄り掛かって腕を組んだ。

「光使いだからって呪いが解ける訳じゃない事を、証明したかったんだ。あんまりにも周りが煩いから」

あんまり効果はないみたいだがな。あの本は、希少本と同じ扱いを受けていた。

「ところで、有名な闇使いに君と同名の人がいるけど、まさか本人?」

「いつの時代だ。ここにある本のか?それとも今か?」

「いやどっちもだけ・・・ん?いやでもさっき、アルナ姓だったっけ?僕が言ってるのはカナッシュ・A・ディオクレア・・・あ」

まぁ、俺としてはどちらでもいい。間違いではないからな。

「本当に同一人物?百年ぐらい前の人だけど?」

「俺の事はともかく、俺はあんたに聞きたい事があって来た。自己暗示で掛けてしまった呪いを、それも他人を殺す程強い呪いをあんたならどう扱う?」

困惑の表情を浮かべているキルドに向かって、俺は問いかける。

「はい?自己暗示で呪い?」

机から離れたキルドはしばらく黙り込んでいたが、意を決したようにようやく口を開いた。

「僕は・・・侵食性がなければ、自己暗示だからいずれ消えてなくなると思う。もしあったら、やっぱり祈り子に呪いを少しでも軽くしてもらってから、その暗示を解く。それしか思いつかないかな。ちょっと判断材料がなくて、このくらいの事しか言えないけど」

祈り子が、全ての鍵か・・・。わかってはいたが、他人に言われると確かだと思える。俺じゃあ、祈り子の真似しかできないからな。軽い呪いは解けても、あいつ程の呪いは解けない。

「やはり、そうか」

呪いは、まず普通に生きていれば見ない。冒険者や何かは旅先で会うかもしれないが、それでも大概は弱い呪いだ。そもそも呪いに対する学問は、人間にとってはまだ新しいんだろう。祈り子以外の画期的な解呪方法が生まれるまで、あと何年掛かる事やら・・・。

「なんか具体的だったけど、現実にいたの?」

「俺の連れだ」

祈り子を探す所からやり直しか。ヘリオンめ、会ったら一発殴らせてもらう。

舌打ちをして、ソファーの背凭れに身体を預ける。

「・・・カナッシュ・ディオクレアさん?」

「なんだ?」

キルドがいつの間にか俺の前にいた。

「君がもし、本当にあの人ならこれがわかるはずだよね?」

そう言って渡されたのは、キルドの手書きらしいレポート。内容は・・・こんな簡単な事、どうしてわからない。

「陣術の話だろう?人間はまだ転移魔術を完成させられないのか。これはだな、テルモナで採れる特殊な石を用いてまず座標を特定させ、それから行う術だ。この過程を省略するのには、莫大な生・・・いや、魔力が必要となる。人間には出来ないだろうが、晶石を使えば少しは負担も軽くなるんじゃないか?」

俺はキルドにレポートを返す。

「それから、陣術は誰にでも使えるように作られている。得手不得手はあるが」

「晶石だって?南にあるあの円い鉱石が?・・・そっか。今度試してみようかな」

こいつ、呪いの研究より陣術の研究の方が向いているんじゃないのか?

「小さい晶石で十分だと思うぞ」

そういえば、晶石はついこの前に壊してしまったな。今度採りに行こう。

机の上でレポートにメモをしているキルドは、羽ペンを置くと俺の方を向いた。

「ほ、本物なんだね?」

俺は肩を竦めるとソファーから立ち上がった。

「さてと、そろそろヘリオンの所に戻るか」

影から外套を取り出す。あいつの事だ、まだ図書館にいるだろう。

「・・・ヘリオン?まさか、マートル姓の人じゃないだろうね?」

そのまさかだ。さすがにヘリオンは有名だな。俺のような冒険者の名が知れ渡る事は、本来なら滅多にないはずなんだが。

首の前で紐を結んだ俺はキルドの方へ身体を向ける。

「それじゃあ、失礼する」

「ちょ、ちょっと待って!また会えるかい?」

「さて、それはどうだろう。俺達はここに一週間ほど滞在する予定だ。この期間にもう一度ぐらい会えるだろうな」

これ以上余計な事を言われる前に退出するのが一番だ。俺はキルドの部屋から出ると、図書館へ向かった。

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