第二幕 尚宮と女官とセンガクシ
場所は宮中に移され、ここからまだ幼い見習い女官候補の少女たちが、親元を離れて宮中女官として、最低限の知識を毎日学ぶ事となる。
礼の仕方、読み書きなど今日より一ヶ月かけて学ぶのである。
一ヶ月後に執り行われる簡単な試験に合格すれば、センガクシという、見習い女官として宮中に入ることができる。
しかし、合格できない場合は家に帰される。
奏麗はまだ四才、通常なら最悪落ちてしまっても次を目指せるだろう。
しかし、奏麗にその選択肢はない。
ここで、絶対に合格しなければならないのだ。
なにせ、彼女はもう優秀な"蒼家"の一員であり、この為だけに引き取られたようなものなのだから。
そのためであろうか、奏麗は指導役の尚宮と女官たちを目の前に緊張で震えていた。
だが、そんな奏麗には構わず早速宮中に関する講義が行われる。
「お前たちが目指すのは水刺間 (スラッカン)の女官です。そのためには、まずは見習い女官とならねばなりません。指導役の尚宮や女官の話を良く聞きなさい。
ではまず、この意味を答えられるものはいますか?」
そう言って尚宮が指したところには"宮中女官"の文字。
「誰も分からぬのか。」
尚宮が呆れたように言い、それに焦った奏麗が声をあげた。緊張のためか心なしか声が震えている。
「き、宮中女官とは、宮中にいて、職を持つ女、宮中で、仕事をする女、という意味で、スラッカンの、女官も、その一つ、です。」
詰まりながらではあったが正しい答えであった。
「その通りです。私達尚宮もそうです。この、女官になるには………」
其処から奏麗は他の少女達の突き刺さるような視線を受けながら、講義を聞かねばならなかった。
たくさんの人間の中にいる場合、そのなかでただ一人突出してしまうと、自然とそれは大衆の敵とみなされやすい。
所謂、いじめ、仲間外れといった類いである。
子供はそれがとても顕著に現れるものだ。
ここに集められた少女達は下は三才から上はだいたい十三才の子供達。
やはり、それは現れる。
講義の後、少女達が寝泊まりする大部屋では貴族に値する両班の名家"華 (か)家"の娘、チャンミンによって、毎日、明かりを消すことと、朝の水汲みが奏麗の仕事とされた上、皆奏麗と話したがらなかった。一ヶ月もの間彼女が同じ見習い女官の少女達と話すことはなかった。
だが、奏麗はその事を特に気にはとめていなかった。
基より、彼女の中での最優先事項は見習い女官の採用試験に合格することである。
さらに、幼き頃に両親をなくし、蒼家に引き取られてからと言うものまともに会話をできたのは、奏麗付きの下女一人であったための慣れ故でもあった。
子供であり 子供であれない