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森の賢者はため息を吐く。

 王国も帝国も相手にしないうちに私の元に思いもよらない訪問者がやってきた。

 それは、アキヒサだった。

 私が人間と関わりたくない事知っている癖に、関わるなら帰ってくるなといったのに、どうして来るのだろうと思わず眉をひそめてしまったのは仕方がないことだと思う。

 だってそうでしょう。私は関わるなら帰ってこないでといったのよ。それなのに王国の服を着て、私の家までやってくるなんて本当に何を考えているの。

 『セイナ様ー、アキヒサが居るよ?』

 『会わないのー?』

 結界と幻術の張ってある家の前に、アキヒサがただ一人居る。それを見て、精霊達が私に声をかける。

 幾らアキヒサが召喚チート男だとしても、アキヒサは私の魔術を解けない。解けないような魔術を私は行使しているのだ。

 経験ってのをバカにしてはいけない。私はアキヒサよりも経験だけはしているのだ。

 「……はぁ」

 魔術を行使して、外に居るアキヒサを見据えながら思わずため息を吐く。

 ぶっちゃけると、関わりたいとは思わない。だって今のアキヒサって、『救世主メシア』なのよ? 王国の人間とバリバリ関わっちゃってるような感じなのよ? 普通に考えて関わりたくない私からすれば面倒よ。

 確かにどうしてるか、心配はしていたけれど会いにこられたらこられたでちょっと…。まぁ、元気そうで何よりだけどね。

 

 アキヒサに気付いて、三十分、一時間、二時間、と過ぎて行った。



 その間、アキヒサはずっと私の家の前にいた。

 どうやら出てくるまで待っているつもりらしい。



 『セイナ様、ずっと待ってるよー?』

 「…そうね。アキヒサなら何日でも待ってられるわよね。きっと」

 アキヒサは人間よりもずっと体が丈夫だ。魔物がいようとも全然問題もないし、食糧さえ持ちこんであれば幾らでも待ってられるだろう。

 それにしても本当に、何をしに来たのだろうというそれだけが不可解だ。

 王国側から私を連れてくるようにでも言われたのだろうか、と考えてもしそうだったらと思うと失笑する。でも流石にそれはないか、と思う。私が人が嫌いなの知っているのに、そんな風にやってくるとは思えなかった。

 「…はぁ」

 私はため息を吐いて、結局アキヒサを一応出迎えようと動き出す。

 結局私は、身内に甘いなと実感して思わず苦笑を浮かべてしまった。

 ベッドから立ち上がり、私はアキヒサを出迎えに外に出た。







 「セイナさん!!」

 突然、出てきた私を見てアキヒサが声をあげた。

 すっかり髪の色は金色に変化している。それだけ、魔力に影響されたのだろう。王国の高価な服を身につけたアキヒサは私の事をじっと見た。

 「それで、何の用かしら」

 面倒だと思いながらも、私は玄関先に立ったまま問いかけた。

 外は、暗くなってきていた。家の明かりしかない、森の中で私とアキヒサは対峙している。

 「王国に力を貸してほしい」

 「はぁ?」

 その言葉に、そんな声が出たのは仕方がないと思う。先ほど失笑するなどと思いながらもそれはないだろと思っていたのに、実際そのことだったのだ。

 50年も一緒に暮らしていた。

 それならば私が、人に関わろうとしていないことぐらいわかってるだろうに。それにその私を見る目が、昔のトリップ少女とその時の王子と重なって嫌気がした。

 頼み事を聞いてくれると、信じて疑わない目。

 私はそんな目を向けられるのは、嫌いだ。

 「何で、私が王国に力を貸さなければならないの?」

 「……何でって。それは、此処が王国領だからってのもあるし、俺は力を貸してほしい」

 「ふぅん? 要するに土地料として働けって? 今までなかったのにそんな風に言われても困るわよ。それに、どうして私がアキヒサに力を貸さなきゃならないのかしら」

 その言葉に、アキヒサの目が見開かれた。

 こんなこと言われると思っていなかったらしい。特に最後の何で私がアキヒサに力を貸さなきゃならないかって聞いたことに驚いているようだった。

 思わずその表情に呆れて笑った。

 「覚えてるかしら。あなたが、出ていく時私は帰ってくるなといったわよね?」

 「…でも、このままじゃ勝てない」

 「そう、利用したいのね。アキヒサは私を、勝つために」

 「利用、なんて…っ」

 必死に何かを言おうとしているアキヒサにはきっと悪気はない。ただ単に負けそうだから助けてほしいと、利用なんても考えずにやってきたって印象。

 でも幾らアキヒサがそうでも、周りはどう思っているかなんてわからない。

 「あのね。私はあなたが勝手に力を使うのはアキヒサの自由だからいくなら行けばいいって、出ていく時いったでしょう?

 アキヒサは人のために力を使う事を選んだ。人に死んで欲しくないって純粋に思ったからでしょう? でも、私は人間が死のうとも別に構わないのよ。王国が負けようとも帝国が負けようともそんなのどうでもいいの。『王国が勝てないから、力を貸してほしい』何て言われても私が動くわけないでしょう?」

 そう、力を使うも、使わないも全てその人の自由だ。

 アキヒサは多くの人間が死ぬのが嫌だと、そうして力をふるっているらしいけどそんな思い私にはない。

 「…お願いだから、力を貸してよ。セイナさん。そうしないと、俺…無理やりセイナさん連れてこなきゃいけなくなるんだ」

 「ふぅん? それが命令ってわけ?」

 「…セイナさん、前に王国の兵を殺すか何かしただろ。味方になるなら許すけれど、ならないなら制圧しなきゃいけないって、イルマ――陛下が」

 そんな言葉に、思わず吹きだしそうになった。

 許すとか、許さないとか、そんなの関係ないもの。私は私のしたいように生きる。それに忠告を無視したあいつらも悪いじゃない。陛下っていっても、今の陛下はまだ三十数年ぐらいしか生きていないような子供でしょう?

 それに……、

 「ねぇ、アキヒサ。無理やり連れていくって、出来ると思っているの?」

 自分に私を連行出来るだけの力があると思っているのが滑稽だった。

 その言葉に、アキヒサは表情を固めた。

 自分を強いっていう驕りは人を油断させる。自分が誰かに負けるはずがないなんて思っているようでは、進歩はない。

 アキヒサは魔術をかじった程度だ。それに王国で魔術を学んだとしても、それは昔の理解する魔術ではなく、今の暗記する魔術だろう。

 昔の技術を暗記して使用するだけなんて、進歩のない魔術だと思う。寧ろ魔術を理解しようとしている人は居るのだろうか。使えるだけで満足しているようでは、魔術は進歩しない。

 「私は私のしたいように生きるの。その結果死んだとしても私は別に後悔何てしない。私とやるなら、殺されるか、殺すか、覚悟してやりなさい。そんな気持ちにアキヒサはなれるかしら?」

 殺される覚悟と、殺す覚悟って、戦いにおいて重要だと思うのよね。自分が死ぬわけないとかそんな風に思いながら戦うなんてバカのすることよ。

 世の中何が起こるかわからないもの。

 それにしてもアキヒサは戦わなきゃいけないって事になったらついてきてくれるなんて甘い考えしてたのかしら。

 …本当に、いつか散々利用されたあげくに捨てられそうね。アキヒサって。

 ずっと英雄で居られる人なんていないと思うの。寿命が短ければ死ぬまで英雄だったと称えられる人もいるかもしれないけれども、アキヒサは違う。ずっと生きて行かなきゃいけない。だから、何れ時がきたら英雄ではなくなると思う。

 私はじっとアキヒサを見た。

 戸惑った目をこちらに向けるアキヒサは、きっと私を殺す覚悟も、私に殺される覚悟も持っていない。

 「ねぇ、次に来る時は殺すか殺される覚悟を持ってから来なさいね。じゃ、さようなら」

 そして、私は魔術を行使する。行使した魔術はアキヒサを森の外に飛ばす魔術だ。無詠唱で行使された魔術はそのまま、アキヒサを飛ばしていく。

 アキヒサは何か考え込むようにして、ぼーっとしていたから普通に飛ばされていった。



 「……本当に面倒だわね」

 そしてそんな姿を見ながら私はため息を吐くのであった。



 ―――森の賢者はため息を吐く。

 (彼女はただ、面倒だと呟いた)

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