エピローグ
一気書きで、四話連続投稿です。これで終わりです。
『救世主』をも圧倒し、その力を見せつけた存在に誰もが畏怖の感情を持った。
アウグスヌスの森はこの時より、多くの国々の重役の決定により聖地とされた。
魔術を極めし、不老の存在。遥か昔よりこの大陸に存在する賢者の暮らす神聖な森だからと。
賢者は度々歴史に顔を出していた。
王国に存在する古い文献によれば、およそ350年前のカタルス王の治世より存在していたとされている。その時より生き続ける白銀の魔術師。生ける歴史とも言える存在であろう。
『救世主』との戦いを見ていた者達は語る。
「賢者を敵に回してはいけない」と、「逆鱗に触れたら国が滅びる」と。
それだけの力を、賢者は持っている。彼女はその場にいたマリア王女に言ったと言う。
「関わらなければ何もしない」と。それをいつまでも守り抜くべきだと王女は語った。
だからこそあの地を聖地と定め、何人も立ち入らない事を王女は提案したのだ。
その場にいた元帝国の魔術師は語った。
「入ったら死ぬ事を覚悟しなければならない」と。
それに加えて服従の魔術具で従わされていたという帝国の『悪魔』と共にあるのに加え、『救世主』を賢者は連れ去っていったという。
あのアウグスヌスの森には、350年の時を生きた『賢者』、帝国で圧倒的な力を見せつけた『悪魔』、王国の英雄として活躍した『救世主』が集っているという事なのだ。
だからこそ、あの森に手を出してはいけない。
『カタラーツ文庫刊/聖地・アウグスヌスの森より出展』
この本は私がアキヒサをシメてしばらくしてから刊行されたものだ。あの王女は行動が素早かった。
とはいっても今は王女ではないけれど。実は王国はあの後、一年もかからずに滅びた。好き勝手に国王がやらかしていたのもあって、反乱がおきた。王女は反乱軍を率いて王を圧倒し、王権を奪い取ったものの、王女には全てを統治出来るほどの力はなかった。結果として王国の領土―――元々の王国の地と旧帝国の地には新たに幾つもの小国が乱立する状態となっている。
もちろん、その小さな領土の弱小国を領土にいれようとたくらむ人間も居た。だけれども王女が「賢者様の事が先です」と他の国の人間に言い張り、それに周りの国も同意したらしい。連中はよっぽど私が怖みたいだった。
それでこの森を聖地にするとか、そういうことでバタバタしている間にあの王女様はさっさと乱立している小国同士で同盟を結んだ。王国の領土に幾つも存在する国々の全てと同盟を結び、他国が攻めてきた時に小国全てで向かい打てるようにしたのだ。他国に攻められれば、小国達はあっという間に飲まれてしまう。そう考えた結果、王女も含めた小国の王になった面々は同盟を結ぶ事になったのだ。
王女はそのうちの王都を含めた一つの小国・ルアネフの女王にあの王女はなっている。本当に思い合ってる人と結婚して、立派に過ごしている。帝国の、フランツの言う所のお爺ちゃんもその国に居るらしいと精霊がいっていた。
フランツはあの後一度だけ、あの魔術師と話にルアネフに行った。行きは転移で送ってあげた。警戒されたらしいけど、話をしたのだ。やっぱり想像してた通り、あの魔術師は服従の魔術具をつけることに反対してそして追放されてたらしい。その後、しばらくしてからフランツは此処に戻ってきた。
そしてアキヒサは今―――、あれから5年たつが眠ったまま。
ずっと眠ったまま私に負けた記憶と、森に祈りに来ていた「アキヒサをどうにかしてほしい」っていう思いと、帝国民の嘆き、あの国王が利用してた記憶、それらをずっとみさせている。それが、私からの迷惑をかけた罰。
でももうそろそろかけてた魔術は解ける。
「……セイナさん。もうすぐ起きるんですよね?」
「そうね。5年ぐらいのつもりで魔術かけたからもうすぐよ」
悪夢を見せる魔術ってのは昔からあった。とはいっても魔力少なければずっとかけ続ける事はできないけれども。
私は魔術を使い続けていても切れない魔力を持ってるからこんなことができるだけ。
「それじゃあ、ようやく挨拶できます」
「そうね。さっさと私が終わって眠らせちゃったからね」
「……そうですね。凄い容赦なかったですよね。あの時」
「当たり前でしょ。身内には甘いっていっても私は自分が一番大事だもの」
五年前を思い出したのか、フランツは青ざめながら言った言葉に私は返事を返す。第一あの時は人間と関わるなら会いに来ないでっていったのに会いにきたりして私怒ってたもの、私。拝んでくるような連中も凄いうっとおしかったしね。
アキヒサが王国と関わって騒動を起こしてたのが約10年。だからその半分、夢を見せる事にした。どうせ私達にとって5年なんて短い期間だ。
フランツはこの世界にきて10年。私の元にやってきて5年。熱心に魔術の勉強はしているけど、まだまだだ。
地球で生きてきた期間と同じ分だけ、もうこの世界でフランツは生きている。
そうやって会話を交わす中で
「ん……」
懐かしい声がきこえた。
私は思わず口元を緩めて、アキヒサを眠らせていたベッドを見る。5年間も眠らせ続けていたアキヒサが目を開いた。
そして、その体を起こす。
混乱しているのかきょろきょろとあたりを見渡していたアキヒサは私とフランツを視界にとどめた。目をパチクリとさせているアキヒサに私は声をかける。
「おはよう。アキヒサ。悪夢の旅の五年間どうだった?」
「……おはよう、ございます。って、あれ? 悪夢の旅? 五年って…? あれ、全部夢…?」
「ええ。現実にあった事を夢としてあなたに見せてあげたの。混乱してるみたいね。覚えてる? 眠る前に私にやられたの」
そういってじっと見てやれば、アキヒサは思考を巡らして「ああっ」と思いだしたかのように叫んだ。
そのまま一気に青ざめる。
「…ごめんなさい。セイナさん」
眠る前の出来事を思い出したのか、アキヒサはそのまま私に謝ってきた。
「いいのよ。罰を与えたから。これから私に迷惑かけないでくれれば。それよりも、フランツ――『悪魔』に挨拶出来る?」
私がそう告げれば『悪魔』という単語に一瞬眉をひそめたが、すぐに思いだしたのか、私のすぐ隣に居たフランツに視線を向けた。
フランツはアキヒサと喋るのがはじめてだからか緊張しているらしいが、最初にアキヒサに声をかける。
「はじめまして。僕、フランツです…」
「…ああ。はじめまして。アキヒサだ」
「うん。仲良くしなさいよ。これから一緒に住むんだから」
二人がなんとも言えない表情で挨拶しあったのを確認して、私は笑った。アキヒサがその言葉にベッドに腰掛けたまま驚いたようにこちらを見た。
「一緒に住む?」
「ええ。フランツは魔術の勉強したいって言ってるし、アキヒサはまだ五年しかたってないのに折角落ち着いた外に顔を出すわけにはいかないでしょ」
フランツは魔術に興味があるから勉強したいっていってるのだ。そしてアキヒサは『救世主』が人々の記憶からなくなるまで外に出ない方がいい。
王国に10年もいて、英雄をやっていたのだ。絵姿も出回っているだろうし、何処にいっても警戒されるだけだろう。
まぁ、100年ぐらいたってまた姿を現して、同じ事を繰り返さないとも言えないけど。
「だから仲良くしなさい。喧嘩はしてもいいけど、やるなら外でやりなさいね」
すぐに仲良くされるなんて思ってないから、そう言っておいた。
それから、同じ者同士の生活が始まった。
――――森の賢者と二つの国。
(王国と帝国は滅びて、彼女は『悪魔』と『救世主』と共にそこにいる)
というわけで、森の賢者様と二つの国はこれで完結です。
迷った結果、終わりがこんな風になったのですが、読者様に納得のいく最後になっていればいいなぁと思います。
元々続編を書こうと思った時に、王国の滅亡を書こうと思ってました。それで色々考えていたら、帝国だの色々脳内で浮かんできてこんな物語になりました。
それと今回はセイナさんの強さを見せつけるようにした方がよさそうという事でこんな感じです。戦闘描写とか苦手なので、もっとうまく書けるようになりたいです。
それでは、此処まで読んでいただきありがとうございました。
誤字などありましたら報告してくだされば、すぐに直させていただきます。
※小国乱立について一応こう書き変えたのですが、おかしかったらまたいってください。少しずつ考えて直します