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森の賢者は吹き飛ばしてみる。

 帝国が王国にまけて、帝国は王国の属国となる事になったらしい。

 とはいっても私は詳しく知らない。全面降伏したと精霊がいっていた。その原因はやはり、アキヒサのようだ。

 アキヒサ相手では太刀打ちできる人間が帝国にはいない。アキヒサと対等に渡り合えたであろうフランツは今此処にいる。だから、勝ち目はないと思ったのあろう。

 帝国は王国の下についた。

 戦争を吹っ掛けた皇帝達は処刑されるはずが、逃げ出したと聞く。あの王国は帝国までも支配するつもりらしい。その後はどうするつもりだろうか。戦争がなくなった後に存在する英雄なんて化け物以外何者でもないだろう。

 少なくとも王国民の支持を得ている英雄であるアキヒサが王国の味方であることは、確かに有益な事だ。でもそれ以上にもアキヒサに対して不信感を持つものや、恐怖心を持つものも出てくるだろう。

 まぁ、それはいい。

 帝国が負けたなら負けたで。ただフランツは色々と罪悪感あるみたいだけど。本当アキヒサもそうだけどお人よしよね。

 もっとフランツに関しては利用されたんだからさ、割り切ればいいのに。寧ろ良い様と思えばいいのにっていったら呆れられたけどね。

 『セイナ様ー』

 「ん? どうしたの」

 のんびりと迷い人について色々と仮定を考えて、服従の魔術具の研究とかしていたら精霊に声をかけられた。

 ちなみにフランツは魔術の呪文とか色々と覚えている。フランツの知らない魔術の載っている魔術書もこの家には多いのよね。

 私はベッドに寝転んで、フランツは椅子に座っていた。必死に覚えようとしてて真面目よねと思いながらも私は精霊の声を聞く。

 『なんかねー、人が森に来てるよ?』

 「放置よ、放置」

 『んーとね、でもセイナ様の事呼んでる? 「余は皇帝だぞ」とか偉そうにいってる?』

 「は? 何処の?」

 『えっとね。多分帝国の?』

 それを聞いてなんで逃げ出した皇帝がこんな場所にいるのだと思わず呆れた。私を呼んでる事も意味がわからない。私には用はない。

 そもそも皇帝ってことは『悪魔』に服従の魔術具を付けるように指示した本人であろうし、良い印象は持っていない。

 周りにいる精霊達は、その皇帝の事を色々と教えてくれる。

 『なんか、セイナ様に無礼って怒ってるよー?』

 『「余が使ってやろう」だの言ってる?』

 敗戦国だって言うのに皇帝は何処までも偉そうらしい。というか、私一応あんたより何倍も長く生きてるんだけどとちょっとイラッときた。

 ベッドの上で服従の魔術具を手にしていた私は、精霊達の声に耳を傾ける。

 『なんかー、「『悪魔』は余の道具であって」とか言ってる?』

 「…うわー、超むかつく感じね」

 精霊の発した『悪魔』という単語に、フランツが一瞬びくっとなってこちらを見た。

 フランツは操られていたのもあって、『悪魔』って言葉大嫌いらしい。そう呼ばれるのが嫌なんだって。

 それにしても人を道具扱いしているのが気分が悪くなるものね。周りに自分に従う人間が誰もいないって状況だろうに偉そうにしている根性には逆に驚いてしまう。

 フランツは何だか不安そうにこちらを見ている。心配なんてしなくても全然大丈夫なのに。どうせ、人間なんてすぐに死ぬし、フランツが『悪魔』だったって事実もそのうち人々の認識から消えていく。フランツが何か良い事をやらかせば、今度は『悪魔』ではなくもっと英雄的存在としてまつられるかもしれない。

 実際私は賢者の次は魔女扱いされて、また賢者扱いに戻ったし。評価なんて他人が勝手につけるものだから、気にしても仕方がないと思うわ。

 『「はやく出てこい」って喚いてるよー?』

 『「余を誰だと思っている」って言ってるー?』

 「うん。精霊達、なんかむかつくから何処にでもいいから飛ばしてきて」

 会いにきている癖にそんな態度している時点で何ともまぁ、むかつくわよね。というわけで寝転がりながら目障りだから精霊にそんなお願いをした。

 「こ、皇帝にそんないいんですか!」

 「いいに決まってるじゃない。人間社会のルールなんて私には適用されないのよ。何処かに所属しているわけでもないしね」

 飛ばしてきて、なんていう言葉に真っ先に反応したのは精霊ではなくフランツだった。それに私は笑いながら答える。

 まぁ、確かにトリップした当初の私ならフランツと同じ反応したかもしれないとは思う。うん。あの頃は若かったなぁ。高校時代は普通に高校に通って、友人達と遊びながら暮らした日々。全然すれてもなくて、恋に遊びに勉強に色々と必死だった日常。

 もう決して戻る事のない日常を思い起こすと何とも言えない気分になる。

 この世界で生きている期間が長すぎて、地球での日々なんてもううっすらとしか覚えていない。だからこそ、アキヒサに私は甘いのかもしれない。

 弟にそっくりで、見たら地球での日々を何処か思いだせるから。

 「ねぇ、フランツ。長い時間を私たちは生きていかなきゃいけないの。私は決めてるのよ。自分が決めたように生きるって。自分達より先に死んでいって、どうせ消えていくのよ。皇帝だってね。人である限り。

 それならそんな連中なんて気にしないでのんびりとしたいように生きる方がいいじゃない」

 誰であっても結局同じような人間以外は先に死んでいくのだ。そんな人間達の事は気にするのを私はもうとっくの昔にやめた。

 周りの人間なんて気にしないで、のんびりと精霊達と暮らす事を私は選んだ。

 「『救世主メシア』だって、人を助けたいなんて思ったからああやって戦う事を選んだ。もっとも、アキヒサは敵側の事にまでは頭が回っていないみたいだけど。で、フランツは選ぶ事さえさせてもらえずに従わせられ戦わせられていた。

 私は人間がどう動こうがどうでもいい。だから皇帝何て私にとってそこらへんの虫と一緒よ。そういう風に生きるって選んだの。だから、フランツも自分のいきたいように選べばいい」

 アキヒサの事を口にして少し苦笑が漏れた。死んでほしくないからって、放っておけないからって、アキヒサは王国の英雄になった。だけれども英雄は、侵略者と同じぐらい、いやそれ以上結果として人を殺す事になっているのだ。

 それに、気付いてるんだろうか。一歩王国から出れば決して英雄なんてものではない事を。

 「…だからね。あなたが皇帝と話したいなら話せばいいし、放っておけないなら助ければいい。でもその結果どうなろうと私は知らないわよ?」

 別に好きにやってくれていいのだ。行動を制限する気もなければ、それを止めるきもない。

 「いや、僕は、助けたいとかじゃなくて…。ただ、いいのかなって思っているだけで…」

 「うん。助けないならそれでいいの。じゃ、精霊達お願い。吹き飛ばして。遠くに。邪魔だから。その結果死んでもどうでもいいから」

 フランツは自分の事で精一杯なのだ。だから人を助ける余裕なんてきっとない。従わせられていた五年間から解放されているのだ。今は。わざわざ自分に無理に戦わせていた帝国をそんな状況で助けようとは思わないだろう。ただ単に地球での倫理観とかがあって、それで躊躇っているだけな気がする。

 そう考えればアキヒサが出て行って、王国の手伝いをしたのは私が保護というか、そういう形で一緒に暮らしていたからかもしれない。

 「…セイナさんって凄いなんていうか、割り切ってますよね」

 「そりゃあ、私がこの世界にきてもう350年以上経ってるのよ? もう地球で暮らしてた頃の何倍もこの世界で生きてるの」

 そんな会話をしているうちに精霊は何体か居なくなっていた。私が頼んだ通り、皇帝を吹き飛ばしにいてくれてるんだろう。

 のんびりとフランツと会話をしながら、私は今後王国はどうするのだろうと少しだけ思いを寄せた。




 ―――――――森の賢者は吹き飛ばしてみる。

 (彼女は精霊に頼んで、皇帝をどこかにやった)


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